奇想の誕生 雪村展(後期)@東京藝術大学大学美術館
勢いのある雨の中、東京藝術大学大学美術館に行きました。
お目当ては、雪村の後期展示です。
あまりに雨がひどかったので、美術館のロビーで少し休憩。
入り口に、16《月夜独釣図》、84《叭叭鳥図》は出品なしとのことわり書きがありました。
以下、いつものように気になった作品についてのメモを残します。(◎は重要文化財、◯は重要美術品、所蔵者の表記がないものは個人蔵)。前期にもあった展示については、以下を参照ください。
- 第1章 常陸時代 画僧として生きる
- 第2章 小田原・鎌倉滞在―独創的表現の確立
- 第3章 奥羽滞在―雪舟芸術の絶頂期
- 第4章 身近なものへの眼差し
- 第5章 三春時代 筆力衰えぬ晩年
- テーマ展示 光琳が愛した雪村
- 第6章 雪村を継ぐ者たち
第1章 常陸時代 画僧として生きる
15《叭叭鳥図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
崖っぷちに止まり、同じ方向を見る二羽の叭叭鳥。雪村は鳥を重ねて描くことが多く、対話を意味しているとされる。
18《山水図 雪村周継 室町時代(16世紀) ミネアポリス美術館》
紙が変色で黒くなっていてかなり見づらい。馬上の人、望楼から湖を眺める人、釣人などが細やかに描かれているのがわかる。
20《瀟湘八景図帖 雪村周継 室町時代(16世紀) 福島県立博物館》
場面替えして二図が新たに展示されていた。ひとつは四羽の雁が水辺でくつろいでいるところ。通常、瀟湘八景の平沙落雁は、空を飛ぶ鳥の群れが見える風景として描かれるが、こうして雁をそのまま描く常識破りな発想が雪村流。もうひとつは、滝のある風景に傘を差している人物がいるところを見ると瀟湘夜雨かもしれない。型破りな瀟湘八景に驚かされる。
22《茅濠図 雪村周継 室町時代(16世紀) 宮城・仙台市博物館》
団扇図。龍を鎮めるために竹を水流に投げ込む仙人。仙人の長房を描いたもので、長房は立膝をつき両腕を大きく振って躍動している。
23《弾琴図 雪村周継 室町時代(16世紀) 大阪・正木美術館》
崖っぷちで琴を囲み談笑する五人の仙人。
25《束帯天神図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
束帯姿の菅原道真。大きな鼻と耳。黒い歯をかみ締め眉間に皺を寄せて厳しい表情をしている。写実性に富んだ描画。
27《観世音図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
蓮の花弁に乗り、波に揺られる観世音菩薩。やわらかい表情が印象的。
29《◎風濤図 雪村周継 室町時代(16世紀) 京都・野村美術館》
全てを吹き飛ばさんとする強風。手前には葉を全て落とした木が、折れそうな程に枝をしならせている。触手のように伸びる波濤。波間には帆が飛ばされそうなほどに風をはらむ一艘の舟。舟にしがみつく三人の緊張が伝わってくるよう。
第2章 小田原・鎌倉滞在―独創的表現の確立
30《◎叭叭鳥図 (画)雪村周継(賛)景初周随 室町時代(16世紀) 東京・常盤山文庫》
羽を休め遠くを眺める叭々鳥。画賛をした恵蒙は鎌倉にある円覚寺の住僧、景初周随。雪村との関係深いことが知られる。
32《瀟湘八景図巻 雪村周継 室町時代(16世紀) 大阪・正木美術館》
小巻。南宋末の画僧、玉澗の瀟湘八景を参考に減筆体で描かれている。漁村夕照、平沙落雁。
36《瀟湘八景図屏風 雪村周継 室町時代(16世紀) 福島・金剛寺》
六曲一隻のかなり大きな屏風だが、暗くてあまりみえない。
38《◎琴高仙人・群仙図 雪村周継 室町時代(16世紀) 京都国立博物館》
3幅の掛軸。中幅には、水中から飛び出す鯉をロデオのように乗りこなす仙人の画。左幅右幅には、その姿を眺める仙人達が描かれている。
琴高仙人(きんこうせんにん)は、長寿の仙術で800年も生きたとされる仙人。琴の名手で、鯉を巧みに乗りこなしたという。
40《官女図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
二幅の掛軸。右幅には、梅と笹の下に官女と瓢箪を取り合う童子。左幅は棕櫚と桃の木の下、食物の受け渡しをする官女を見上げる童子。
42《鍾馗図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
本展準備中に発見された。右手に剣を持ち、両肩をあげて踊るようなポーズ。冠から出ている二本の垂纓が昆虫の触覚のように立ち上がって躍動している。
45《布袋図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
ふくよかな笑み、大きく丸いお腹の布袋様。腰には瓢箪を下げ、杖の先に袋があるのは一般的だが、団扇もくくりつけてあるのは、団扇図をよく描いた雪村ならでは。布袋図を得意にしただけあって、細部まで描きなれている。
47《百馬図帖 雪村周継 室町時代(16世紀)鹿島神宮》
前期から場面替えしてあったが、とにかく馬、馬、馬。描きなれて、どれも軽やかに描かれているが、愛らしく、そして上手い。
第3章 奥羽滞在―雪舟芸術の絶頂期
51《呂洞賓図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
龍の額に乗る呂洞賓。 首が折れそうなほど曲がり、視線は天空の龍の尻尾を追っている。強風と体から発する気で顎鬚が爆発したかのように四方に広がり、衣や紐が風になびく。手の瓶からは二匹の龍が立ち上る。
53《官女図屏風 雪村周継 室町時代(16世紀) 京都国立博物館》
六曲一隻の彩色の屏風。右には雪村風な奇妙に曲がった岩と吹き上げたような波。滝の前にかかる橋の欄干に子供がよじ登っている。碁盤の床の建物では宮廷の子女らがたくさんの書を広げて和やかに談笑している。屋根から垂れ下がる幕が厚ぼったく波打つ。
55《鍾馗図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
腹を出す虎の前脚を片手で握り、虎の動きを制する鍾馗。説明には虎退治ではなく遊んでいるとあった。確かに言われてみれば、虎の表情や脚にちっとも力が入ってない。よほど鍾馗の指に生えた毛の方が力強く描かれているくらいで。鍾馗の視線の先には雪村の落款がある。
58《寒山拾得図 雪村周継 室町時代(16世紀) 栃木県立博物館》
なごやかなタッチの寒山拾得。左幅の寒山は右手で広げた巻物を高く上げて笑い顔。右幅の拾得は左手に箒を持ち、天を見上げて右手を高く伸ばす。その先に月がある。
61《布袋童子図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
後ろ向きの布袋様に二人の童子がまとわりついている。一人は布袋の肩によじ登り、一人は布袋が背負う袋に寄りかかっている。仁和寺の布袋唐子図と似ているが、後ろ向きで顔が見えないからこそ、布袋のおだやかな顔が想像できて、観ているこっちがにんまりしてしまう。雪村は、人や子供を描くのがとにかく好きだったのだろう。
64《四季山水図屏風 雪村周継 室町時代(16世紀) 福島・郡山市立博物館》
六曲一双の大きな山水画。右から左に四季を描く。湿った空気にけぶる風景。瀟湘八景の要素も含まれるが、左隻の滝が目立つ。岩山にかかる橋や滝の上に見える道を行列が進む。近景と遠景が混ざり合う不思議な空間。
66《楼閣山水図 雪村周継 室町時代(16世紀) 奈良・大和文華館》
手間のなだらかな曲線で描かれた山は、山頂まで木々が色濃く描かれている。その先には高くそびえる山。墨の濃淡とタッチを様々に変えて風景を描ききっている。題名とは裏腹に楼閣は左端に小さくあるだけ。
ずっと展示を見続けて集積したものがあったのか、この絵の前に来て、雪村が憧れたという雪舟の秋冬山水図を急に思い出した。絵自体は全く違うものだけれど、雪村が雪舟に憧れる気持ちが何となく伝わってきたような。
68《○鷹山水図屏風 雪村周継 室町時代(16世紀) 東京国立博物館》
六曲一双の屏風。右隻には滝と岩の上で羽を休める鷹。視線からやや外れて、隠し絵のように岩陰に身を潜める兎。岩を叩く水流が触手のようにうごめく。左隻には鴨を追って急降下する鷹。必死に逃げる鴨の口から悲鳴が聞こえてきそう。その横に大枝に止まるもう一羽の鷹。
第4章 身近なものへの眼差し
72《鶺鴒図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
絹本彩色。黄色のやわらかい花弁を八重になって広げる黄蜀葵(トロロアオイ、ハナオクラ)。蕾のひとつに鶺鴒(セキレイ)が止まり、黄蜀葵のしなった茎と鶺鴒の長く伸びる尾が一続きになって、画面に大きな曲線を作っている。黄蜀葵の手のひらのような五裂した葉は、一様に正面を向いている。
73《敗荷鶺鴒図 雪村周継 室町時代(16世紀) 茨城県立歴史館》
敗荷(はいか、やれはす)とは、秋になって枯れた蓮のこと。首を落とした蓮の茎に二羽の鶺鴒が重なって止まり、二羽の尾がV字を作る。
76《竹に鷺図 雪村周継 室町時代(16世紀) 神奈川県立歴史博物館》
太い竹に止まり細い脚を折って休む鷺。鷺が竹に止まるってだけでも奇妙な光景なのに、その竹が作り物のように途中で大きく曲がっている。鷺の曲げた脚から連想したものだろう。
77《菊竹蟷螂図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
まっすぐの伸びた竹に、開いた花が重いのか、ゆるやかに弧を描いてしなる菊。菊の花の下、大きく開いた空間に飛躍する蟷螂。顔は首をひねって画の鑑賞者を見ているよう。
80《猿候図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
背中にもう一匹の猿を乗せ、片手は木を掴み、もう片手は水に映る月に伸ばす猿。牧谿風の手長猿。
猿猴捉月(えんこうそくげつ) は、自分の能力を過信して、欲で身を滅ぼすこと。枝に尾をつかってぶら下がった猿が、井戸の中の水に映った月を取ろうとしたところ、枝が折れて溺れ死んだという話に由来する。
87《蔬果図 雪村周継 室町時代(16世紀) 福島県立博物館》
丸茄子と瓜が重なりあっている。瓜の弦は勢いがあり、まだ生きているように花をつけたまま上に伸び、画面に三角構図を作っている
第5章 三春時代 筆力衰えぬ晩年
89《花鳥図屏風 雪村周継 室町時代(16世紀) 栃木県立博物館》
六曲一隻の紙本着色の屏風。 右側には岩木花鳥がごちゃごちゃと込み入って描かれている。説明文に、本来の二分の一の大きさだったのを再構成したとあったが、よく理解できない。はたして下絵でも残されていたのか。画面中央に水中を狙って急降下する鷺。左には牡丹と黄蜀葵、岩場の巣に番の鷺が描かれている。
90《猿候図 雪村周継 室町時代(16世紀) 茨城県立歴史館》
二幅の掛軸に牧谿風の手長猿。右幅には三頭の猿。手前に白い水流。弦に黒白の猿が繋がってぶら下がり、水流に手を伸ばす。左幅には二頭の猿。一頭の猿は木に巻きついて豊かに実った葡萄に手を伸ばす。もう一頭は崖の際にしゃがみこみ、それを見上げている。
92《李白観瀑図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
背中に毛皮を乗せた李白。背後の滝を振り返るように見上げる。従者の童子が水の器を差し出す。背後の、もう一人の従者は団扇、日除けの傘を持っている。
93《布袋図 雪村周継 室町時代(16世紀) 東京・板橋区立美術館》
袋の口を片手に持ち、袋の上で踊るように片足を上げてポーズをとるにこやかな布袋。実に楽しげ。
96《漁村夕照(瀟湘八景図巻断簡) 雪村周継 室町時代(16世紀)》
魚村夕照の風景ではあるが、独特なのはこれでもかというくらい細かくたくさんの人が描かれている。ここまで雪村の絵を見続けていると、雪村らしいといえば雪村らしくもあるが。すぐ近くの都美館でバベルの塔展をやっているので、雪村と同時代に生きたブリューゲルを自然と思い出す。
97《遠浦帰帆(瀟湘八景図巻断簡) 雪村周継 室町時代(16世紀)》
厚く靄がかかり全体的にぼんやりとした風景。手前の木だけが濃く描かれている。遠浦帰帆の題名ながら、帆船は左端に小さく意匠化されたシルエットで描かれている。
99《倣玉潤瀟湘八景図巻 雪村周継 室町時代(16世紀)》
前期から場面替えされていて、馬を乗せた船から始まる。
102《雪景山水図 雪村周継 室町時代(16世紀) 京都国立博物館》
密度濃く雪山に暮らす人々の様子が描かれている。橋を渡るもの。馬に乗るもの。狭い道を進むもの。山の傾斜に連なる家々は冬だというのに開け放されて、室内の人々まで見える。なるほど、"雪の村”の桃源郷。
105《瀟湘八景図屏風 雪村周継 室町時代(16世紀)》
独創的な瀟湘八景。遠くの山は黒いシルエットで描かれ、薄い墨を垂らして夜雨にしている。落雁はまるで龍のような曲線を描く。手前の岩々はぐにゃりとうねって描かれ、そこにこれでもかというくらい密度濃く人馬を描き込んでいる。現存部分を数えると86人とか。
106《◎自画像 雪村周継 室町時代(16世紀) 奈良・大和文華館》
草履を脱いで竹の座椅子に座っている禅僧。手には如意。白い髭を薄く伸ばし、目を細めた表情。背景に月夜の雪山が描かれている。継雪村老の落款が七言絶句に紛れ込んで書かれており、雪村が風景に入り込んでいると解釈されて、自画像と推定されている。
テーマ展示 光琳が愛した雪村
3《馬上布袋図 尾形光琳 江戸時代(18世紀)》
袋も杖も打ち捨てて、疾走する馬の上で両手を広げる布袋。
第6章 雪村を継ぐ者たち
107《蟹図 性安 室町時代(16世紀) 栃木県立博物館》
二匹のモズク蟹。掌状の三裂の葉はミツデカエデか。千呆性侒(せんがいしょうあん)は中国明で生まれ、渡来した臨済宗黄檗派の禅僧。法諱が性安。
113《鷲図(雪村団扇) 江戸時代 茨城県立歴史館》
団扇図をよく描いた雪村に習って、茨城県では古くから団扇が作られている。本品は現存する最古のもの。鷺はデザイン化されている。
127《牧馬図 狩野芳崖 明治時代(19世紀) 山口県立美術館》
雪村の馬にならって描いたもの。生き生きとした六頭の馬が様々なポーズで描かれている。背景に濃淡で木々を描き、奥行きをもたらしている。狩野芳崖は幕末から明治にかけて活躍した絵師。
129《枯木猿候図 狩野芳崖 明治時代(19世紀) 下関市立美術館》
大きな枝に腰掛け、空中の蜂に手を伸ばす手長猿。曲がった枝、猿の長い手とその先の蜂がなだらかな曲線を描き、画面全体が大きくS字になるように構成されている。
展示は前期から大方入れ替わっていて、展示室で二時間弱過ごしました。流れを知っていたからなのか、前期よりはあまり疲れずに観ることができました。第6章の展示室の音がやや控えめになったかもしれない。前回ほど意識せずにすみました。今回失敗があって、この美術館のガラスは映りこみが酷いと知っていたのに白い服で来てしまいました。おかげで、見る角度を選んで場所移動する羽目になることしばしば。これから暑くなると、ますます白っぽい服を着る機会が増えるから注意しなくては。