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奇想の誕生 雪村展(前期)@東京藝術大学大学美術館

この日の上野駅は臨時改札が開いていました。それもそのはず、上野公園は普段の10倍以上の人出。桜は七分咲きといったところでしたが、花が新しくてきれいでした。
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混雑を避けて、東京藝術大学美術館へ。
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本日は雪村展を観に来ました。
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sesson2017.jp

「『ゆきむら』ではなく『せっそん』です」なんてわざわざ書いてあると、今まで「ゆきむら」なんて読んだことがないのに、かえって読み違えそうになりませんか?

以下、いつものように気になった作品についてのメモを残します。(◎は重要文化財、◯は重要美術品、所蔵者の表記がないものは個人蔵)。

第1章 常陸時代 画僧として生きる

12《滝見観音図 雪村周継 室町時代(16世紀) 茨城・正宗寺》
11の作者不明の滝見観音図を模写したもの。 滝を垂直に描いたり、善哉童子が観音様を仰ぎ見るように変えている他、観音様の表情が穏やかになっている。

13《葛花、竹に蟹図 雪村周継 室町時代(16世紀) 群馬県立近代美術館(戸方庵井上コレクション)》
蟹と竹や葛花という珍しい組み合わせ。質感もさることながら、線の美しさに目を奪われた。

20《瀟湘八景図帖 雪村周継 室町時代(16世紀) 福島県立博物館
色紙を張り合わせて図帖になっている。山市清嵐図に描かれた山肌は、空に向かってぐにゃりと曲がっている。画面中央から勢い良く吹き出す不自然な滝。説明に「奇想の誕生」とあったが、写実性よりも空想の風景を描くことに主眼が置かれているのがよくわかる。

今回の展示には瀟湘八景が多いので、ここでおさらい。瀟湘八景は中国の山水画の伝統的な画題。瀟湘は湖南省の二つの川、瀟水(しょうすい)と湘水(しょうすい))に由来する地名で、中国有数の景勝地である。八景はそれぞれ、山霞の中の市の賑わい(山市晴嵐 さんしせいらん)、海上を戻ってくる帆船(遠浦帰帆 えんぽきはん)、夕暮れの漁村(漁村夕照 ぎょそんせきしょう)、遠い山あいの寺の鐘の音(遠寺晩鐘 えんじばんしょう)、しとしとと降る夜の雨(瀟湘夜雨 しょうしょうやう)、湖上の秋の月(洞庭秋月 どうていしゅうげつ)、干潟に降りる雁(平沙落雁 へいさらくがん)、山に降り積もる雪(江天暮雪 こうてんぼせつ)として描かれる。

28《◎夏冬山水図 雪村周継 室町時代(16世紀) 京都国立博物館
左幅に夏景、右幅に冬景を描く。いびつで尖った岩山、楼閣から急に落ちる滝。そこから続くのだろう、人が進む道際に滝のような流れ。冬景は、山肌を縫ってジグザグと進む道。そこを人や驢馬が進む。その先では釣り人が舟に向かう。山には小さな月がかかる。

第2章 小田原・鎌倉滞在―独創的表現の確立

31《蕪図 景初周隋/雪村周継 天文24年(1555)賛 東京・常盤山文庫》
小さな落款に対して、画面いっぱいにのびのびと描かれた蕪。景初周随は鎌倉円覚寺の禅僧。

32《瀟湘八景図巻 雪村周継 室町時代(16世紀) 大阪・正木美術館》
小巻。南宋末の画僧、玉澗の瀟湘八景を参考に減筆体で描かれているが、舟や人物はアレンジしている。玉澗の八景図の断簡は出光美術館にある。

33《山水図 雪村周継 室町時代(16世紀) 群馬県立近代美術館(戸方庵井上コレクション)》
本来は瀟湘八景を描いた画巻の一部だったらしい。岩の上に三人の人物。視線の先に雁が連なり、右上には小さな月が浮かぶ。秋月と落雁が冬景に描かれる。

35《瀟湘八景図 雪村周継 室町時代(16世紀) 宮城・仙台市博物館
瀟湘八景のうちの一部が描かれている。落款に「継雪村老翁図筆」とあり晩年の作と見られている。本は襖絵だったものが軸装されて6幅になった。画が連続していないので、失なわれた部分があると思われる。道理で月が見当たらないはずだ。

37《高士観瀑図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
滝つぼの水しぶきがうねり、のたうちまわる動的な描写。

39《列子御風図 雪村周継 室町時代(16世紀) 東京・公益財団法人アルカンシエール美術財団蔵》
列子は風を意のままに操ることができたという仙人で、崖から吹き上がる風に乗って宙に浮いている。衣のふくらみで浮遊感がみごとに表されている。本来は三幅対の中央の絵で、両脇は所在不明とのこと。

41《竹林七賢酔舞図 雪村周継 室町時代(16世紀) メトロポリタン美術館
竹林で七賢人が酔っ払い笛や太鼓に合わせて陽気に踊っている。人物がやわらかい動きで描かれているのと対称的に、竹は線が鋭くて緻密。

43《騎驢図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
団扇形の紙。右には川の流れ、左からは画面中央に向かって岩壁がせり出している。岩壁に沿った道を、傘をかぶり杖を持つ人と驢馬に乗った人が進む。驢馬の背にいる人物は体を大きくひねって方向転換。その先に夕陽が覗く。驢馬に乗る人物としてよく画題にされる中国北宋代の詩人蘇東坡 ( そとうば )を描いたものかもしれない。

44《欠伸布袋・紅白梅図 雪村周継 室町時代(16世紀) 茨城県立歴史館》
左幅に白梅、中幅にあくびをする布袋様、右幅に紅梅。梅の美しさもさることながら、布袋様の踊るようにしなやかな伸びのポーズに笑わされる。
この画は展示室に入ってすぐのところ、尾形光琳の紅梅図屏風をプリントしたスクリーンで仕切った場所に展示してあった。その意図は、構図が紅梅図屏風と非常に類似しているからだという。見比べてみると確かに驚くほど似ていた。光琳のアレンジにも驚くが、これに気がつく研究者もすごい。

46《老松山水図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
画面中央に大きく松が描かれている。松と重なるように木、根元に滝のような流れ、その奥に建物の屋根があり、遠くにうっすらと山並み。斬新な構図に驚かされる。

47《百馬図帖 雪村周継 室町時代(16世紀) 鹿島神宮
鹿島神宮に奉納された百図。現在伝わるのは13図のみ。馬は様式化されているもののその形は正確で、しかもかわいらしい。

第3章 奥羽滞在―雪舟芸術の絶頂期

49《呂洞賓図 雪村周継 室町時代(16世紀) 奈良・大和文華館》
水面から勢いよく出た龍の額にすっくと立つ呂洞賓呂洞賓は天空の龍と対峙する。左手に持った壷からも二頭の龍が生まれようとしている。呂洞賓の体から発する風で髭や衣が舞い上がる。
ポスターに使われている本展一押しの作品。2016年東博であった禅展の後期展示で一度見ています。

50《呂洞賓図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
龍の角に左足をかけ、右足は龍の眉間を踏みしめ、今まさに立ち上がろうとしている呂洞賓を描いたもの。49より表情が見やすい。体から気勢を発しているため、鼻が高く、目が飛び出し、舌もまくれ上がっている。
企画決定直前に発見されたため、本展が初公開となった。

52《釈迦羅漢像 雪村周継 室町時代(16世紀) 茨城・善慶寺》
珍しく丹念に描かれた三幅対の着色仏画。中幅に釈迦如来とその弟子、阿難と迦葉が描かれる。右幅には壷から光を出す羅漢、左幅には天空の龍と対峙する。左幅は呂洞賓の画と共通点が多い。

54《鍾馗図 雪村周継 室町時代(16世紀) 茨城県立博物館》
右手に剣を構え片足を少し前に出して立つ。衣が風に舞う。
立ち方のせいでブーツにいつも目がいく。

60《杜子美図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
太った馬に後ろ向きで乗る人物。髭を摘む指がやわらかく、まるで花を持つよう。詩聖、杜甫(姓が杜、名が甫で、字が子美)を描いたもの。 よく馬が詠われることから、馬(もしくは驢馬)に乗った姿で描かれることが多い。逆馬の姿は、同時代の詩仙、李白で酒豪の五言絶句で秋浦歌(しゅうほのうた)に秋酔上山公馬(酔うて上る山公の馬)と、後ろ向きに馬に乗る人が詠われていることから、それと混同したものか。李白は酒豪としても知られ、杜甫に飲中八仙として詠われるほどだった。

63《瀟湘八景屏風 雪村周継 室町時代(16世紀) 岡山県立美術館
六曲一双の屏風。金泥と墨が一体となって、やんわりとした世界感を成す。 

69《◎松鷹図 雪村周継 室町時代(16世紀) 東京国立博物館
松の太い枝に止まる鷹。松の枝、松葉を描く粗放な筆の動きに反して、画中からは静けさを感じる。切手にもなった雪村の代表作であるが、説明文には別人の作の可能性が示唆されていた。

70《◎花鳥図屏風 雪村周継 室町時代(16世紀) 奈良・大和文華館》
右隻は力動的な画面を成し、椿と梅の根元を舐めるように溪流があり、その流れは岩に当たって波頭をつくる。急流をすべる水鳥の上には小鳥が舞う。一方、左隻には月が浮かび、水面は静けさを湛える。湖畔には蓮と白鷺、岩の上で水鳥が固まって休んでいる。静かに葉を揺らす柳の周りに燕が舞う。

71《花鳥図屏風 雪村周継 室町時代(16世紀) メトロポリタン美術館
右隻には、白鷺の群れが大きく湾曲する老梅に止まり、水面には二匹の巨大な鯉が描かれている。左隻には、湖畔の柳に群がる白鷺、その周りで舞い飛ぶ燕が描かれている。

第4章 身近なものへの眼差し

78《瓜にかやつり草図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
葉を広げた瓜にからみつくカヤツリグサが描かれている。瓜の巻弦がぐにゃぐにゃと曲がり、やけに執拗に瓜の葉の葉脈が描かれている。

79《猫小禽図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
枝に止まる鳥の重みでしなる竹。その下には太った猫が鳥を狙う。題名には猫とあるが、あまりに虎顔なので幼獣かもしれない。鳥は獣を見て威嚇している。

81《竹雀図 雪村周継 室町時代(16世紀)》
中心に竹を配し、それに群がる七羽の雀が描かれている。根元側に竹に重ねて押印。ふっくらと膨らんだ雀がかわいらしい。竹雀は東洋画の画題であり、牧渓のぬれ雀がよく知られ、取り合わせのよいものの例えにされる。

第5章 三春時代 筆力衰えぬ晩年

88《蝦蟇鉄拐図 雪村周継 室町時代(16世紀) 東京国立博物館
右幅には、李鉄拐(りてっかい)が口から勢い良く分身を吹き出している様子が描かれている。左手に杖を持ち、腰にひょうたんをぶら下げている。左幅には、蝦蟇仙人と三本足の蝦蟇。蝦蟇仙人は腰に大根をつけ、李鉄拐の勢いに負けじと、妖術で三本足の蟾蜍の霊獣青蛙神(せいあじん)に水しぶきを吹かせている。

95《金山寺図屏風 雪村周継 室町時代(16世紀) 茨城・笠間稲荷美術館》
中国に渡航することがなかった雪村が想像だけで描いたもの。金山寺とは、中国江蘇省鎮江にある金山龍遊禅寺のこと。屏風中央に金山寺のある揚子江の中の島がある。界画と呼ばれる、界尺(定規)で細線を引く技法を用いて、緻密に伽藍が描かれている。山には部分的に霞がかかり、洛中洛外図のように空間を区切っている。建物の中、道には遠くを眺める人物が描かれていて、その視線の先をたどると島に向かって進む船があるという、視点を動かす工夫がされている。

98《瀟湘八景図 雪村周継 室町時代(16世紀) 東京・永青文庫
小さな画面に瀟湘八景を描き込んだもの。中央に山を配し、多くの人物がところ狭しと描かれている。
説明文に、同時代ヨーロッパではブリューゲルが小さな画面に密度の濃い画を描いているとあった。

101《山水図屏風 雪村周継 室町時代(16世紀) 栃木県立博物館》
想像上の風景で、複数の視点が組み合わさっている。

103《渡唐天神図 策彦周良/雪村周継 室町時代(16世紀) 茨城県立歴史館》
渡唐天神は天神信仰のひとつで、菅原道真が夢の中で唐に渡り参禅したという姿を描いたもの。その多くは道服を着て両手で梅花を持つ姿である。賛を書いた策彦周良(さくげんしゅうりょう)は室町後期の臨済宗の禅僧。禅展で見た明の寧波で描いたとされる発色の美しい頂相が印象に残る。

104《潭底月図 雪村周継 室町時代(16世紀) 奈良・大和文華館》
深い水面に沈む月も元は天空のものという80歳の雪村の境地。
潭底月とは、雲峰志璿禅師の「五灯会元、巻十六」にある竹影掃堦塵不動、月穿潭底水無痕(竹影、階を掃って塵動かず、月、潭底を穿って水に痕無し:竹の影が階段を掃いても塵は動かない、月の光が水底まで貫いても水はその跡を残さない)に由来する。

テーマ展示 光琳が愛した雪村

琳派の代表絵師である尾形光琳は、雪村を思慕し、模写や雪村を意識した作品を数多く残しました。

8《◎銹絵寒山拾得図角Ⅲ 尾形光琳尾形乾山 江戸時代(18世紀) 京都国立博物館
雪村はよく寒山拾得を描いた。光琳がそれに習って、乾山の角皿に絵付けしたもの。

10《◎小西家伝来光琳関係資料のうち石印「雪村」 江戸時代(18世紀) 京都国立博物館
光琳は雪村の模写をいくつも試みていて、雪村が使っていたといわれる石印まで入手していた。光琳の傾倒ぶりがよくわかる。

第6章 雪村を継ぐ者たち

111《瓜茄子に虫図 雪洞 室町時代(16世紀) 大阪・正木美術館》
雪洞は雪村晩年の弟子。瓜の上にいるキリギリスを頂点に三角の構図。

114《狩野家縮図 狩野常信 江戸時代(17~18世紀) 東京藝術大学
勉強と教育のために膨大な大和絵や古画の縮図を残した。

130《竹虎図 狩野芳崖 明治20年(19世紀) 奈良県立美術館》
古物商で見つけた雪村の画を芳崖が記憶を頼りにスケッチして、橋本雅邦にみせたもの。131と酷似している。

135《昇龍図 橋本雅邦 明治時代(19世紀) 埼玉・山崎美術館》
子どもの頃から魂に刻まれているような龍の姿が印象に残る。雪村の流れを引き継ぎ、高く上がった波頭がまるで蛇の頭のように龍にまとわりつく。

ここ最近、私はデジタル耳栓を使い、鑑賞時には周囲の雑音が気にならないようにしているのですが、本展では地下展示室でずっと木を叩く音がしていて、耳障りだなと思っていたらそれも第6章の展示の一部でした。視覚に集中したい場所での音の全てが私は邪魔に感じるのですが、最近この手の演出が増えてきていますね。そういう流れなのだとは思いますが、鑑賞時のマナーとして展示室での無用なおしゃべりは控えていただきたいのと同時に、展示側からの音の押し付けも勘弁してもらいたいところです。 

 

今回、展示を一周するのに3時間弱。間に10分くらい休憩しました。単眼鏡はさほど使いませんでしたが、ガラスに写りこみがあるのと、劣化で見づらいものが多いので目を凝らすことが多く、出口に着いた時には目にも足にも腰にも疲労を感じました。長い間、前かがみの変な姿勢でいたんでしょうね。

東京藝術大学の門を出ると、音楽学部にある桜が満開になっていました。

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上野公園へ向かう人の流れが途切れないのに恐れをなし、人波に逆らって谷中方面へ進み、あんみつ、たまごサンド、さくらスカッシュ。
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二階の座敷でゆっくり足を伸ばせて、ホッとしました。