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驚きの明治工藝展@東京藝術大学大学美術館

秋分の日は朝から本降り。外は肌寒く、博物館の方が暖かいくらい。東京もいよいよ半袖では無理な季節になりました。

 

評判良さげなので、上野の東京藝術大学大学美術館に驚かされに行きました。

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第1章◎写実の追及ーまるで本物のようにー

こちらでは20点以上の自在置物が展示されていました。自在置物というのは、金属で写実的に作られた可動フィギュアのこと。蛇ならくねくねと全身を動かせるし、とぐろを巻くこともできます。

日本では、彫刻をはじめとする立体的な造形は仏像が中心であったため、理想とする姿を顕現化する傾向が長く続いていました。しかし、江戸時代になると、工芸の世界では、動物や植物の姿を写実的にとらえ、それを再現する作品が見られるようになります。特に鍛金や鋳金の金工では、もともと立体的な作品を作っていたため、そうした表現を行いやすかったと考えられます。その代表的な例に、鍛金による自在置物があげられます。

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宗義《自在龍》明治ー昭和時代

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入場してすぐの天井に大きさ3メートルの龍。ライティングも効果的で迫力があります。大きいので造りもよく見えます。

 

 《自在鯱》 江戸時代

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 鯱(しゃち)は想像上の生き物で、体は魚で頭は虎、尾ひれは常に空を向き、背中には幾重もの鋭いとげを持つそうです。この鋭い歯。まるで剣山のようです。

 

宮本理三郎《春日 竹に蜥蜴》昭和時代

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竹に見えるけれど木製です。蜥蜴が今にも動き出しそうでした。

 

竹江《蝉》明治時代

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5センチ程の小さなもの。羽は牛角製。これくらい小さくなると単眼鏡がないと細工が見えません。スマホのカメラじゃろくに写らないし。この展示会は単眼鏡が大活躍です。

 

第2章◎技巧を凝らすーどこまでやるの、ここまでやるかー

明治の超絶技巧が並びます。

江戸時代には、友禅、高肉象嵌、色絵など、工芸のそれぞれの分野で新たな技法が開発されます。明治時代になると、そうした技法から生まれた表現は、より高い精度が加わり、細密な作品が多く作られるようになります。明治時代の工芸品は、欧米諸国への輸出が目標とされ、内外の博覧会への出品によって、その優秀な技術を示すことが重要視されました。「公開」という江戸時代にはなかった制作目的のため、より高度な芸術性が求められるようになったのです。

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今年は宮川香山の没後100年とあって回顧展が各地で開かれています。おかげで私の中の超絶技巧は香山が基準になっちゃって、ハードルが高いのなんの。そんじょそこらの超絶技巧じゃ驚きませんわよ。

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宮川香山《色絵金彩鴛鴦置物》明治ー大正時代 白磁 色絵

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このオシドリの愛らしいこと!つぶらな瞳と寸詰まりに膨らんだ体のせいで実物より可愛らしい。しかし、よく見ると、一本一本丹念に羽毛が描かれていてその技巧に驚きます。

 

涛川惣助《秋草鶏図花瓶》明治時代 七宝

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この花瓶に描かれている絵、彩色ではなく七宝です。

首に菊花紋、首から肩にかけては蜻蛉と花。

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菊花紋といえば天皇や皇室を表す紋です。涛川惣助(なみかわそうすけ)ってどこかで聞いたと思ったら、迎賓館の花鳥の間の壁に飾られていた七宝焼の作者だそうで。明治天皇から外国要人へ送られた贈答品の花瓶には十六八重表菊紋がデザインされるそうなので、この花瓶もどちらかの要人に贈られたものなのでしょう。蜻蛉は勝虫とも呼ばれる吉祥柄です。

七宝には有線と無線の大きな二つの方法があり、その無線七宝の創始者が涛川惣助です。無線七宝は絵画的な表現で幽玄の美をもたらしますます。涛川惣助は有線と無線両方の技法を使い分け日本画のような数々の作品を生み出したそうです。

 

 藪明山《薩摩焼送子観音花瓶》明治ー昭和時代

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高さ12センチ強の手のひらサイズの壺です。肉眼ではとても見てられない細密さ。ここまでくると職人の技に呆れるしかありません。

瓶の腰部分にあるモヤモヤした模様を拡大。スマホのカメラじゃこれが限界です。

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こんな写真じゃわからないと思いますが、たくさんの猿です。しかも、かなり精密に描かれています。ぜひ単眼鏡を持っていって展覧会で直に観てください。

 

諏訪蘇山《紅魚文鉢》明治ー大正時代 青磁

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水を張ると実際に魚が泳いでいるように見えるそうです。

 

易信《蒔絵螺鈿芝山硯屏》明治時代

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本来、硯屏(けんびょう)とは硯の前に置き埃をふせぐ衝立のことらしいのですが、その実は机の装飾品なのでしょう。芝山とあるのは、芝山細工といって江戸時代末期に芝山仙蔵が始めた工芸技法のことで、おもに象牙紫檀の素地に、象牙螺鈿、珊瑚などを薄肉に彫ってはめ込んだもの。高さ30センチ。豪華で細やかな細工が見事です。象牙の白枠に木蓮と牡丹、雌雄の孔雀、その下に真鯉と緋鯉が描かれています。派手だなあ。

 

山田宗美 《兎》明治時代 鉄 打出

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粘土で作ったような柔らかいフォルムですが、実は鉄。鉄の焼きなましを繰り返しながら金鎚で槌起(ついき)して鍛え上げ成形するそうです。これだけ叩き出すのに、どれほどの時間が費やされるのでしょう。気が遠くなりそうな作業に思えます。

 

大島如雲《狸置物》明治-昭和時代 銅 鋳造

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この表情が、今我が家で一時預かりしているダックスフントによく似ていて笑えます。この前脚を上げる姿勢、犬ならポインティングと呼ばれる仕草で、何か興味のあるものを極度に集中して見ている時の姿勢です。このタヌキの目線の先には、よほどの好物があるに違いありません。

 

無銘《月下港辺図壁掛》明治時代 ビロード友禅

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一見水墨画に見えますが、実は織物です。

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最初、刺繍かと思ったのですが、これはビロード友禅というもの。この技法の作品はほとんどが海外に流出してしまっているそうで、いくつか三の丸尚蔵館で見られるだけだそうです。

ビロード(天鵞絨)友禅とは:ビロードは針金を織り込み、織り上がった後、その針金を引き抜いて輪奈(ループ)にした絹、羊毛、綿の織物で、パイル状になるのが特徴です。戦国時代にポルトガルから伝わり、陣羽織などに使用され、江戸時代には京都や滋賀県長浜で生産されました。

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池田泰真《鮎に芦図菓子器》江戸ー明治時代 木 蒔絵

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池田泰真(たいしん)は柴田是真(ぜしん)の一番弟子(円山四条派の絵師、蒔絵師で19世紀の日本美術を代表する一人)と言われ、伝統的な器物に江戸趣味を加えた作品を得意としたらしい。

容器は栗の形かと思いましたが、鮎に蛍に芦とくれば、これは蛤でしょうね。

 

最後に、この展覧会にはもうひとつの「驚き」が隠されています。実は、この展覧会で披露された膨大な作品は、すべて一人のコレクター、宋培安氏のコレクションなんだそうです。宋培安コレクションは収蔵数3000点にも及び、明治工藝の基となった江戸時代末期の技巧を凝らした作品から、明治時代を中心に昭和初期頃までの、漆工、金工、陶磁、七宝、染織とすべてのジャンルを網羅し、現在の日本ではあまり見ることがないビロード友禅や自在置物などが含まれています。

 

せっかくだから学食に行くつもりだったのに閉まっていたので、上島珈琲でランチセット。

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カリフラワーのポタージュで体が温まりました。