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並河靖之七宝展 明治七宝の誘惑―透明な黒の感性@東京都庭園美術館

寒々しい空の下、旧朝香宮邸です。
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私にとって一年で一番忙しい2月。なんとか乗り切れそうな雰囲気になってきたので、並河靖之七宝展 明治七宝の誘惑―透明な黒の感性に行ってきました。

www.teien-art-museum.ne.jp

明治時代、輸出用美術工芸として人気を博した七宝。並河靖之(なみかわ・やすゆき、1845-1927)は、その中でも繊細な有線七宝により頂点を極めた七宝家です。没後90年を記念する本展は、初期から晩年までの作品を一堂に会する、初めての回顧展です。

京都の武家に生まれた靖之は、久邇宮朝彦親王に仕えたのち、明治維新後に七宝業に取り組み始めます。本展覧会の会場である旧朝香宮邸は、元は久邇宮朝彦親王の第8王子鳩彦王の邸宅。並河靖之は久邇宮で養育係をしていたという話だから、当然鳩彦王とも面識があったことでしょう。旧朝香宮邸が竣工した時期にはもう並河は没していますが、本展は並河靖之と縁ある人の家での開催ということです。

 

以下に気になった展示物をメモ代わりに残します(作者なしは並河靖之)。

 

2《松に鶴図花瓶(一対) 明治6年 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館》
遠目に虎柄のように見えるが透明感のある茶色の釉薬の上に植線で細かな雲文を作って地としている。

4《蝶に花唐草文花瓶 明治前期-中期 並河靖之七宝記念館》
黄色の班地に蝶唐草文。初期の作品には黄色地に不透明な釉薬が多く用いられ、伝統的な京七宝の手法に則ったものが多い。

8《兎雉図花瓶(一対) 並河靖之に帰属 明治13年頃 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館》
正面に兎と葡萄、裏面に雉と梅。 並河靖之が考案した茶金石を使う手法が用いられている。茶金石は不透明な赤茶地に金色のラメが入るガラス質。ゴールドストーンとも呼ぶ。

14《龍文瓢形花瓶 明治中期 ギャルリー・グリシーヌ》
瓢箪のように首が細長い一輪挿し。頚部は若草色に菊菱文。胴部は黒地に緑龍が描かれている。龍の胴部が乱反射している。不透明な様々な色粒が見える釉薬に植線で鱗が細やかに描かれている。エメラルドグリーンの鬣に赤い炎が映える。

16《蝶に草花図飾壷 明治中期 清水三年坂美術館》
手のひらですっぽり覆えるサイズの球形の壷。金菊摘みの蓋、口縁と高台は金色。濃紺地に花唐草文、三方に黄色地の窓があり、その中に蝶と草花が描かれている。

25《菊唐草文細首小花瓶 明治中期 並河靖之七宝記念館》
トルコ石の中でも極上の青を思わせる発色の地に菊唐草文の小さな花瓶。華奢な頚部は黄色の菊菱文で肩部と裾部に蓮弁文。

29《菊唐草文花瓶(一対) 明治25年 東京国立博物館
瓶子形の花瓶一対。口縁と高台は緑地に菊花文。肩部に向かい合わせの鳳凰を描いた蓮弁文。胴部は黒地に丸菊唐草文。裾部にも蓮弁文のある東洋の雰囲気を出した作品。

30《蝶に花丸唐草文飾壷 明治中期 京都国立博物館
金菊摘みの蓋のある球形の壷。肩部にぐるりと一周蓮弁模様を分断するようにラインが入る。胴部は花丸文についている葉が蝶の羽のように広がり、蝶の羽ばたきと呼応している。

32《菊紋付蝶松唐草模様花瓶(一対) 明治中期 総本山泉涌寺
口縁部と高台は金地。頚部に菊紋入り。肩部に蓮弁文。胴部は黒地に蝶と松唐草文。一見、菊唐草文に見えるが、よく見ると花びらの四分の一くらいが欠けているネムノキの花のような形。糸状花弁の菊にも見える。蝶の羽は非常に細やかな模様。部分的に茶金石が使われている。

33《桜蝶図平皿 明治中期 京都国立近代美術館
若草色の平皿。周縁部の桜、中央に色とりどりの蝶が舞う。蝶の足は前方に左右二本ずつ見える。裏面は一面の唐草文様。蝶の重なりに速水御舟の《粧蛾舞戯》を思い出す。

34《蝶図瓢形花瓶 明治中期 清水三年坂美術館》
瓢箪型の一輪挿し。頚部は黄地に唐草文。その下には黒地に花丸と五七桐模様。括れには藤花。胴部は黒地に大小の蝶が舞い、裾部には菖蒲が描かれている。

35《花蝶文花瓶(一対) 明治25年 東京国立博物館
瓢箪型の一輪挿し。頚部に菊菱、その下には黄地に蛾。括れには藤花。胴部は小豆色の梨子地で空間を大きくとって色鮮やかな蝶が描かれている。裾部に菖蒲。
33では二本ずつだったのが、こちらの蝶の足は前方に左右三本ずつ描かれていて、文様として試行錯誤したらしいのがわかる。実際のところ、蝶の飛翔時は脚をぶらんと下げているので、上から見ると羽に隠れて見えないのだが、蝶にこだわりのある並河としては、どうしても正確に描きたかったのでしょう。

38《藤草花文花瓶 明治後期 並河靖之七宝記念館》
本展覧会のポスターに使われているもの。口縁部から肩にかけて極彩色だが、胴部は白と紫の藤花房が垂れ下がり、その下に瑠璃色の空間を広く取ることで絵画性のある表現になっている。裾部の蒲公英が愛らしい。 

40《藤花菊唐草文飾壷 明治中期 清水三年坂美術館》
手のひらに収まる程度のサイズ。黒地で胴部にはふくらみがある三脚付の飾壷。蓋と肩にかけては細密な菊唐草文様で白と紫の藤の花房が垂れ下がる。
独立ショーケースに飾ってあり、藤文様の回転性が気になって、この周りをぐるぐる回り続けました。下絵がすぐ近くに張ってあったのですが、それも一部しか描かれていない、とても省略したものだったので、余計に気になりました。

47《四季花鳥図花瓶 明治32年 宮内庁三の丸尚蔵館
黒地に大きく山桜が描かれている。その裏面には青紅葉。樹間を野鳥が飛び、根元に野の花が咲く。夜に木々がライトアップされたかのよう。植線に肥痩がつけられており、例えば幹の根元には太い金属線が用いられて、絵筆で描いたかのような表現をしている。非常に絵画的な作品。青々とした紅葉の葉のグラデーションも見事。

49《花鳥図飾壷  明治後期 清水三年坂美術館》
黒地に銀菊摘みの蓋。蓋部下半分と肩部に菊菱文。蓋の上部と胴部は黒地に黄色の迎春花が鮮やかである。根元に鳥と蓮華草と菫。黒の空間を大きく取った絵画性の高い作品。

52《菊御紋章藤文大花瓶 明治後期-大正時代 並河靖之七宝記念館》
並河靖之作品の中では大型のもの。胴部に菊御紋の入った鮮やかな青地の壷。白と薄紫の藤の花房が垂れ下がる。藤の花の先端が二つに割れてピンセットのような形になっているのが面白い。葉の植線に肥痩をつけている。

63《蝶に竹花図四方花瓶 明治後期-大正時代 清水三年坂美術館》
丸みを帯びた角のある縦長の花瓶。黒地に大きく竹が描かれていて、口縁の覆輪を黒にして壷と連続しているように見せている。黒地の空間を大きく取り、そこに黄白い小さな蝶が舞う。竹の根元には淡い桃色の芥子の花。幽玄な雰囲気がある。

65《五重塔風景文花瓶 明治後期-大正時代 並河靖之七宝記念館》
珍しい風景文の花瓶。五重塔の背景が薄桃色で夕焼け空の静けさを感じる。壷の内側が緑色だった。

68《春日大社風景文扁壷 明治後期-大正時代 並河靖之七宝記念館》
こちらも珍しい春日大社の風景を描いた壷。先日東博の春日大社展に行ったばかりなので興味を引く。扁平な壷で緑地。門前に石灯籠と鹿。空気遠近法で春日山には植線が使われておらず淡く描かれている。他の風景文のも見たが、山の稜線を無線にしていたのはこれだけ。

72《雀茗荷野菊花瓶  明治後期-大正時代 明治神宮
金と銀の植線を使い分け、緑地に可憐な茗荷と雀と野菊が描かれている。食堂にぽつんと一点だけ飾られていたのと、茗荷というモチーフが面白かった。

87《菊花図花瓶(一対) 濤川惣助 明治33年頃 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館》
並河靖之と同時代を生きた七宝の天才、二人のナミカワのもう一人、無線七宝の濤川惣助の作品。キリッと引き締まる有線の並河靖之の作品とは対照的。白地の一対の花瓶。空間を広く取って大きく白菊小さく紅菊が描かれている。菊の葉のベルベットのような質感を思い出させる色合い。紅菊の方は枯れたような葉の色をしている。
本館二階に上がってすぐのホール、その片隅に展示されていましたが、一目でその幽玄な美しさにほっとため息が出ました。

100《下図「四季草本図」 並河工場 明治時代 並河靖之七宝記念館》
数々の四季の草花の例で、糯躑躅、紫藤、逸初、馬蘭、難波茨、空豆花、李、胡蝶花、菫、山桜、蓮華、連翹、白蓮、寒菊、水仙、山茶梅、迎春花、元寶草が美しく描かれている。余白には動物の例で、雀、山雀、繍眼児、瑠璃、蝶、虻、蜻蛉が描かれている。その上には色見本。並河工場の宝の数々が一覧できるすばらしい下図。

105《下図「舞楽図壷台座付」 並河工場 明治時代 並河靖之七宝記念館》
本展には下図も多く展示されている。その中でも一番気に入ったのが本図。壷の胴部に二人の舞楽青海波の舞い手が描かれているもの。台付の花瓶で山鳩色(暗めのモスグリーン)の地に衣装の青と赤が映える。下絵なため壷の輪郭からはみ出ているのが、余計躍動感を与えている。 

118《下図「ボーダー文様」 並河工場画ノ部 明治時代 並河靖之七宝記念館》
口縁の施される模様の下図。「並河ドロ赤」「ス九番」等細かく釉薬が指定されている。下図は拡大されて描かれているため、その細かな模様がよくわかり、さらに驚かされる。

132《下図「四季花鳥図花瓶」 並河工場 明治時代 並河靖之七宝記念館》
47の下図。
並河工房の優れた下図の多くを中原哲泉が描いた。中原は並河七宝を初期の頃から支えたうちのひとり。

 

本展示は、一周するのに2時間半かかりました。今回は単眼鏡必須な細工ばかりなので、出品数のわりに時間がかかります。途中軽く休憩を入れないと、とても集中力が続かない。終いには目がチカチカしてきました。

 

展覧会を見終わったら、庭園美術館名物のシフォンケーキをいただきます。いつのまにかカヌレ型じゃなくなってたけれど、おいしい。

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庭園は梅が見ごろでした。
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16時半を過ぎて、庭園の奥まで続く遊歩道が既に閉鎖されていたのは残念。思ったよりも展覧会に時間を取られました。