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サルのひろば@東京国立博物館 平成館

野々宮図を思う存分堪能した後に平成館へ移動しました。企画展示室で「親と子のギャラリー サルのひろば」の展示がありました。
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www.tnm.jp

東京国立博物館(トーハク)では毎年この時期にひとつの動物に注目し、その動物が表わされたさまざまな作品をご覧いただく展示を行なっています。
今年のテーマは「サル」です。 

以下気になったものについてのメモを記します(◎は重要文化財、◯は重要美術品)。

1.日本人はどうやってサルをリアルに描えがいてきたの?

日本美術にみられるサルは、おもにニホンザルとテナガザルの2種類です。ニホンザルの場合は、せまい額、鼻の下や顎の長さ、短い手足、短いしっぽや尻だこといった特徴がよく表現されています。特に手足の表現として、母指対向性(親指とほかの4本の指が離はなれ、指同士を向かい合わせてものがつかめる)という霊長類の特徴を、ていねいに表わしているものが数多く見られます。
テナガザルは、もともと日本には生息していません。鎌倉時代に、中国から禅宗という仏教とともに、中国の画家が描いたテナガザルの絵が伝来し、日本ではその絵がお手本となりました。

《群猿図(模本) 1巻 模者不詳、原本=森狙仙筆 江戸時代・19世紀、原本=江戸時代・文化2年(1805)》
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さまざまなポーズの猿27匹が描かれている。サルの絵を描く名人だった森狙仙の絵を写したもの。

《猿図 1幅 森狙仙筆 九鬼隆一郎旧蔵 江戸時代・19世紀》
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新出作品。親子と思しい檜の木に登る3匹の猿。親猿は手で捕獲した蜂を見つめている。蜂は封(土)、(猿)猴は侯という具合に音で通じることから、立身出世の願いをこめた主題であろう。九鬼氏収集作品で、執拗な毛描き、顔や手足に精細な描写をみせる。

Colbase:群図

ニホンザルを見事に描写している。日本画でサルといえば森狙仙らしい。なんでも、森狙仙の残っている作品の9割がサルの絵なんだとか。

2.日本人はサルにどのようなイメージをもっていたの?

ニホンザルには、人びとの暮らしと結びついたさまざまなイメージがあります。たとえば、「吉祥(良いことがおこる兆し)」の意味をもつサルの作品が、平安時代ごろから作られるようになりました。そののち、人間のよくない行ないをサルにたとえる表現も生まれました。

《百猿図 1幅 狩野探信筆 江戸時代・18世紀》
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長寿や縁の寓意をこめた吉祥の画題。手長猿の描法は、中国北宋の易元吉や南宋末元初の牧渓の系譜に連なるが、白黒の猿たちが、チェーン状につながり、木の洞に身を寄せ、雀を捕まえようとするなど、見ていて飽きない。探信は、狩野探幽の実子。

Colbase:百猿図

犬や猫など多くの動物を描いた絵は多いけれど、風景の中に描かれたものは珍しい。たくさんのテナガザルが木の弦に生った実のようにぶら下がっている。一頭一頭の動きが面白くて見入る。

《染付猿絵水指 1個 一方堂窯 江戸時代・19世紀 》
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水指の胴に青い花の咲く枝に白黒の二頭のテナガザルが描かれている。白は百から一を除いた字であることから九十九の意で、黒のテナガザルを加えて百猿とし、吉祥を表している。

千疋猿透大小鐔 1組 矢上光広作 江戸時代・19世紀
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群集する猿によって鐔を形づくるのは長崎・矢上派の特徴で、これを「矢上の千疋猿」と呼んでいる。毛並みをあらわした立体的な猿の姿や、目の金象嵌など極めて細密な作風をみせるが、群猿を円形に破綻なくまとめ上げる構成力も注目され異彩を放っている。

Colbase:千疋猿透大小鐔

一見レース模様のような鐔だが、よく見るとサルで模様ができている。解説によると日本ではサルの鳴き声「キキッ」に喜の字を当てて、縁起のよい動物とされて、このようなたくさんのサルを組み合わせたデザインを「喜々猿」と呼んで縁起物、厄除けにした。

馬猿猴図(唐絵手鑑「筆耕園」の内) 1枚 趙雍筆 中国 明時代・15~16世紀
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『筆耕園』は福岡藩主の黒田家に伝わった唐絵手鑑。宋・元・明の画家の作品とされる60図が2帖に収録されている。その大半の作品には江戸前期の狩野安信(1914~85)の外題が付されており、当時の唐絵鑑賞の様子の一端を窺うことができる。

Colbase:唐絵手鑑「筆耕園」

中国では出世の願掛けでウマに乗ったサル「馬上封侯」がよく描かれた。「馬上」が「すぐに」、支配者を表す「候」の発音がサルの「猴」に通じるためである。

水滴と根付の展示。
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《猿印籠牙彫根付 1個 線刻銘「正民」 江戸時代・19世紀》
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根付に表された猿は、写実的なニホンザルからデフォルメされたサルまでさまざまな猿がある。手で桃などの果実を採食する姿やモノをもつ姿は、猿の特性をよく捉えている。またその表情は、写実的なものから滑稽な表情まで幅広く表現されている。

Colbase:猿印籠牙彫根付

桃の根付を見つめるニホンザル。仕草がやや老眼ぎみで親近感。

猿の手相 1枚 奥村政信筆 江戸時代・18世紀》
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男女の相性を見る占い師が、テナガザルの手相を真剣に見ている。樹上のサルの表情もかなり真剣。漆墨が使われているので、描かれた当初はサルの毛並みや占い師の着物がつややかであったと思われる。

意馬心猿図 1幅 柴田是真筆 明治時代・19世紀
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「意馬心猿」とは仏教で語られる馬のように暴れ猿のように落ち着かない心のことで、「猿の烏帽子」は身の程知らずの格好をする愚か者の意味であるが、その割に穏やかな雰囲気が漂っている。

《猿蟹 1枚 礒田湖龍斎筆 江戸時代・18世紀》
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湖龍斎は江戸時代中期の浮世絵師で、鈴木春信のあとに美人画家として活躍した。浮世絵の中でも特に柱絵を得意としたほか、肉筆にも秀でていた。この作品で、湖龍斎はお伽噺「さるかにかっせん」の蟹をだまして柿を取る場面を描いている。

Colbase:猿蟹

小猿を背負ったサル。樹下に三匹の蟹が描かれている。桃の実を差し出しながら、あっかんべーをする猿の表情が憎たらしい。昔話と違い、柿ではなくて桃。

3.サルは山の神さまの使いでもあり、ウマの守り神でもあった!

縄文時代の人びとは、自分たちと似たような姿や行動をするサルに親しみを感じるいっぽうで、サルが深い山や暗い森に住んでいることから、特別な思いをもっていました。そののち、サルに対する思いは、山の神さまの使いやウマの守り神になるなど、信仰と結びつきました。サルはかしこく芸達者なため、儀式やお祭りなどで舞ったり演技をしたりもしました。それは今でも「猿まわし」として楽しまれています。

猿形土製品 1個 埼玉県さいたま市岩槻区 真福寺貝塚出土 縄文時代(晩期)・前1000~前400年
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縄文時代の動物形土製品のなかでサルは、イノシシや貝についで数多く作られた。狭い額に長い顎+あご+短い尾がつく尻だこなど、サルの特徴をよく表している。当時の人びとにとってサルが身近な存在である一方で、人によく似たその姿に畏怖+いふ+の念を抱き作られたと考えられている。

《江戸名所図会 1冊 齋藤長秋著 江戸時代・天保7年(1836)》
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江戸名所図会は江戸の観光ガイドのようなもの。この頁には、猿神の人形を乗せた山王祭の山車が描かれている。山の神を祀る山王祭では、猿も山王の使いである猿神として信仰されていた。

石山寺縁起(模本) 1巻 狩野晏川模写、原本=高階隆兼他筆 明治時代・19世紀、原本=南北朝時代・14世紀》
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猿は馬の病気を治すことができると信じられて馬小屋で飼われたり、馬の守り神として大切にされた。

《猿曳図(模本) 1枚 狩野勝川院模写、原本=狩野探幽筆 江戸時代・19世紀》
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馬が病気にならないよう新年の行事として行う「厩払い」では、猿回しが家々を回った。

《猿にさんばさう 1枚 魚屋北溪筆 江戸時代・19世紀》
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三番叟の舞は五穀豊穣を寿ぐ舞い。この画では、猿が三番叟の縞々模様の烏帽子をかぶり、左に神楽鈴、右に御幣を持って、めでたい尽くし。

4.インド生まれのサルの神さま

インド神話に登場する「ハヌマーン」は、サルの神さまです。赤い顔で体が大きく、長いしっぽをしています。その雄叫びは雷の音のようであったといいます。姿も自由に変えることができ、空も飛べました。

ハヌマーン立像 1躯 カンボジア アンコール時代・11世紀
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猿神ハヌマーンは、古代インドの叙事詩『マーマヤーナ』で、主人公のラーマを助けて、ランカー島のラーヴァナと戦い、ラーマの妻シーターを救出します。物語の登場人物としてばかりでなく、礼拝の対象としても好まれました。

指揮者のようなポーズが愛らしく東洋館のマスコットと私が勝手に思っているハヌマーン立像です。

東洋館二階にあるパネルで馴染みのお姿ですね。
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《乳海攪拌の二(神猿ハヌーマン) アンコールワット廻廊第四壁 1幅 昭和時代・20世紀》
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乳海攪拌はヒンドゥー教における天地創造神話で、これはアンコールワット回廊の浮き彫りを拓本したもの。ヴァースキという蛇神を山に巻き付けて天と地を創造している場面。

 

いつのまにかお昼もとっくに過ぎてオヤツの時間でした。平成館のラウンジがとても混雑していたので、ランチは法隆寺宝物館に移動してガーデンテラスでベーグルサンド
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本館の常設展をもう少し見たかったけれど、あまりの混雑ぶりに展示室で座れる椅子もない程だったので、残りはまた次の機会にしました。