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長沢芦雪展 京のエンターテイナー@愛知県美術館

連休三日目は名古屋に移動して、愛知県美術館で開催されている長沢芦雪展へ。
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そこそこ混んではいましたが、焦るほどでもない感じ。子供の姿も多く、告知が広く行われている様子が伺えました。

以下、気になったものをメモとして残します(◎は重要文化財、◯は重要美術品、◇指定文化財、所蔵先のないものは全て愛知県美術館所蔵品)

第1章 氷中の魚:応挙門下に龍の片鱗を現す

1《長沢芦鳳 長沢芦雪像 一幅 絹本着色・描表装 天保年間(1830-44)頃 千葉市美術館》
京で圧倒的な人気を誇った円山応挙の弟子は、千人を超えたと言われる。その中でも抜きん出た才能を見せたのが芦雪。外連味の多い表現からも窺い知れるように、酒を好み自由奔放で、時には不遜と評された性格だったという。長い眉やいかにも頑固そうなその肖像からも伺える。

8円山応挙 牡丹孔雀図 一幅 絹本着色 安永3年(1774) 嵯峨嵐山日本美術研究所》
応挙そっくりだなと思って近づいたら、応挙のでした。
11《楚蓮香図 一幅 絹本着色 天明6年(1786)以前》
楚蓮香は芳香を身にまとい、外に出るたびに蜂や蝶が付き従いながら、その香りに慕い寄っていたと伝えられる長安府中の名媛。黄色の着物に赤の上着を着て、木の幹に軽く寄りかかって立つ美女。指先に蝶が止まるのを眺めている。

12《虎図 一幅 紙本着色 「芦雪」署名 オオタファインアーツ》
正面を見据えた虎。前脚は丸太のように太い。毛並みが実に丁寧に描かれている。耳が極端に小さいのが気になる。後ろ向き倒して柄が見えているだけなら、まだこちらに飛びかかってくるわけではなさそう。

15牡丹雀図 一幅 絹本着色 天明6年(1786)以前 無量寺・串本応挙芦雪館
豪華に咲く赤や白の牡丹の花。庭石やその側に雀が三羽止まっている。署名が蘆雪ではなく芦雪としてある。
17布袋・雀・犬図 三幅 紙本墨画淡彩 天明6年(1786)以前 無量寺・串本応挙芦雪館
左幅は雀が木の実をついばんでいる。木の実の下の白い布を目で追っていくと、それが中幅の布袋の袋だということがわかる。布袋は皿回しをする紙人形で遊んでいる。その傍らには鼠。右幅には三匹の子犬。その一頭は布袋の人形に釘付けで、もう一頭を踏みつけていることに気づいていない。白黒の犬は背中を向けている。その傍らに竹。竹と犬の組み合わせは、漢字の笑の字に通じることから「一笑図」と呼ばれている。

18《岩上猿・唐子遊図屏風 六曲一双 紙本墨画淡彩 天明6年(1786)以前》
左隻は荒々しい筆致で、清水の流れる岩の上で思い思いに佇む三頭の猿を描いたもの。一方の右隻は、白い川を挟んで五匹の子犬と唐人の子供のいる、のどかな光景。ころころとしたフォルムの仔犬は師、応挙のとよく似て、とてもかわいらしい。抱えられた子犬の伸びた後脚がたまりません。

19《牛図 一幅 紙本着色 天明6年(1786)以前または寛政前期 有限会社 鐡齋堂》
青い目の黒牛が画面からはみ出すスケールで描かれている。白目が見えるほど驚いた顔、垂れ下がった胸垂、狭い前脚の様子からして後ろに回ったら蹴り飛ばされそう。

第2章 大海を得た魚:南紀で筆を揮う

芦雪の作品で最も有名な《虎図襖》は、本州最南端にあたる和歌山県串本町無量寺で、《龍図襖》と向かい合わせに描かれました。襖6面のうち4面分がある「室中の間」から仏間の本尊仏像を拝するとき、薄暗い仏間から龍虎が出てきて拝む人を囲むように感じられます。現在、本堂の襖には高精細印刷の複製画がはめられ、実物は収蔵庫でほぼ同じ配置でみることができますが、展覧会でこのように配置される機会は今までありませんでした。この展覧会では、畳や柱など無量寺のしつらえまでも展示室に再現して、本物の龍虎図をご鑑賞いただきます。
本展では更に、「室中の間」を挟む二部屋の襖絵も再現展示します。主題に応じて描法を大きく変える芦雪の技に目を見張られるとともに、モティーフのつながりなどにも気づかれることでしょう。

21◎龍図襖 六面 紙本墨画 天明6年(1786) 無量寺・串本応挙芦雪館
無量寺室中之間の仏間右側の襖絵で、天明6年初春滞在中の作品。22と向い合せにある襖絵で、裏面は24の左四面にあたる。前足の爪と頭部のみを描き、画面の外に巨大な龍の全身を暗示する。襖全面に雲煙が走りそのスピードを感じる。

22◎虎図襖 六面 紙本墨画 天明6年(1786) 無量寺・串本応挙芦雪館
無量寺室中之間の仏間左側の襖絵で、21と向い合せにある襖絵。裏面は23の右四面にあたる。躍動する虎は、手前の大きな前肢そして胴体から後ろ脚、巻いた尾に視線が誘導される。力を漲らせた躍動感みなぎる様子は大画面を最大限に活かしている。虎を描いているが、一見猫のような愛らしさも感じられる。

23◎薔薇に鶏・猫図襖 八面 紙本着色 天明6年(1786) 無量寺・串本応挙芦雪館
無量寺上間二之間に面する襖絵で、角の部分に大きな岩を配し、その左の四面には雌雄の鶏が描かれる。雄鶏の不安定な姿勢、野茨の固く鋭く延びる枝が緊張感をもたらしている。右の四面は22の裏面。水辺の岩の上でくつろぐ二匹の猫と、少し離れて水際で鮎を狙う一匹が描かれている。野茨の枝も芦の葉も右に大きく傾いでいることから、結構な川風が吹いている情景である。

24◎唐子遊図襖 八面 紙本墨画淡彩 天明6年(1786) 無量寺・串本応挙芦雪館
無量寺下間二之間に面する襖絵で、唐子が習字のお稽古する様子を描いているが、他人の顔にいたずら書きしたり、絵を描いたりと、それぞれなやんちゃぶりが見ていて楽しい。唐子の足元には子犬も戯れる。右端の子が見上げる先には天井から降りてきた鼠がいる。

27《絵変わり図屏風 六曲一隻 紙本墨画 天明6年(1786)》
左から、蜆子和尚図、船子夾山図、丹霞焼仏図、芦葉達磨図、5曲目をとばして牧童笛吹図を描いている。5曲目のはパフォーマンスとして描かれたものなのか、下半分を黒塗り(鯨?)にして上半分に帆を張った船団が描かれている。
28《童子・雀・猫図 三幅 紙本墨画淡彩 天明6年(1786)》
右幅には竹の下に雀が三羽、うち一羽の視線は中幅の童子を向いている。童子は左幅の猫を向き、右手に鼠を持って高く掲げている。左幅には棕櫚の木と猫が描かれている。猫は目だけを童子の持つ鼠に向けている。
30◎群猿図屏風 六曲一双 紙本墨画 天明7年(1787) 草堂寺
右隻には切り立った岩山に座す一頭の白猿、左隻には水辺で思い思いに戯れる五頭の猿が描かれている。黒い岩と白い水辺、孤独と群れ、緊張と穏やかさを対比させた演出。
31《◇寒山拾得図 一幅 紙本墨画 天明7年(1787) 高山寺
幅160センチの画面に寒山と拾得をバストアップで向かい合わせに描いたもので。二人を奇っ怪な容貌で描きながらも、顔の近さで表される親密さが、奇妙な穏やかさをもたらしている。
32《◇朝顔に蛙図襖 六面 紙本墨画 天明7年(1787) 高山寺
四面の襖に余白を大きく取って朝顔を描いている。左端から生えた朝顔は上に弦を伸ばし、上端を越えで画面外に支えを見つけている。そこから大きく右下方に向かい右端に植わっている若竹を巻きひげで掴んでいる。竹の根本に蛙が二匹。濃く短く引かれた二本の横棒で、水平方向から見た朝顔の花が表されている。余白の妙と花の意匠化が面白い作品。

第3章 芦雪の気質と奇質

33円山応挙 双鹿図屏風 二曲一隻 紙本金地着色 天明3年(1783) 京都国立博物館
34双鹿図 一幅 紙本着色金泥 寛政4年(1792)以降 京都国立博物館
37円山応挙 狗之子図 一幅 紙本着色 安永年間(1772-81) 一般財団法人 高津古文化会館》
山野草の生える丘で、三匹の仔犬が重なり合って眠っている。その奥では白犬と赤犬が向き合い、今にもじゃれあいそうな瞬間を捉えたもの。
日本画に子犬ブームを起こしたのが応挙。写実を重ねた後、その愛らしい要素だけを抽出して応挙流の子犬が生まれたのでしょう。柔らかそうな毛並みにむくむくに太り、丸っこく幼い顔が印象に残ります。
38《薔薇蝶狗子図 一幅 絹本着色 寛政後期(1794-99)頃 愛知県美術館 (木村定三コレクション)》
雪の中に咲く薔薇の傍らで五匹の仔犬が様々な格好で戯れている。一匹の視線の先には蝶がいる。
応挙の仔犬からさらにデフォルメが進み、口吻が上がって胸が広がり、胴が伸びてコミカルな印象になった。仔犬の柔らかい体がよく表されています。
39一笑図 双幅 紙本墨画淡彩 寛政中期 同志社大学文化情報学部
竹と犬の組み合わせが漢字の「笑」に通じることからその題名がある。右幅は三人の童子と戯れる4匹の仔犬。股の下から覗く犬の顔の面白いこと。左幅は竹の下に、仔犬の後ろ首を持ってぶら下げて歩く童子。運ばれる仔犬の無力な様子が笑いを誘う。
42《降雪狗児図 一幅 紙本着色 天明年間(1781-89) 公益財団法人 阪急文化財逸翁美術館
黒い地に横向きの白犬と背中をむけた白黒の犬が描かれている。ドライブラシで絵具を塗り重ねた手法。ゆっくりと降り積もる雪が黒地に映える。
油絵で描いた下手な日本画のよう。夜に行灯の弱い光で見ると浮き上がって見える効果を狙ったのだろうと説明にあった。試行したらしく、本展でいくつか似たようなのが並んでいた。
45《なめくじ図 一幅 紙本着色 寛政後期(1794-99)頃》
画面中をねとねと跡をつけて歩き回るナメクジを描いたもの。上からスタートして一筆書きで一気にナメクジの線を描いたようで、最後ナメクジに向かう一呼吸前で急に角度がついているのも含めて面白い。24《唐子遊図襖》の唐子のいたずら描きにも似たような線がある。
47《汝陽看麹車図 一幅 紙本墨画(指頭画) 天明後期(1786-88)》
杜甫が七言古詩『飲中八仙歌』で、汝陽は麹を積んだ車を見て涎を垂らしたと詠ったのを画題にしたもの。指に墨をつけて描いた、いわゆる指頭図というもので、芦雪も大の酒好きだったと伝わっているので、これも酔いながら勢いにまかせて描かれたものなのかもしれない。
49円山応挙 元旦図 一幅 紙本着色》
裃に袴姿の男が一人朝日を浴びている画。余白が大きく、薄く烟った山と長く伸びた影に朝の静けさが感じられる。

第4章 充実と円熟:寛政前・中期

52《昔噺図 一幅 紙本墨画淡彩 寛政前期(1789-93) ヤング開発株式会社》
昔話の桃太郎を画題にしたもので、桃の花が咲き乱れる山の風景に、川で洗濯をする老婆と山に向かう老爺が描かれている。江戸時代の桃太郎は、桃が川から流れてくるのではなく、桃を食べて若くなった老夫婦が子供を授かるという話なので、当然、流れる桃は描かれていない。
53《唐子睡眠図 一幅 絹本着色 寛政前~中期 宮内庁三の丸尚蔵館
赤い腹巻きをして眠る赤子を描いたもの。柔らかそうな頬、くしゃみをする直前のような弛緩した表情が素晴らしい。枕からずり落ちる背中が奇妙なことになっているが、その実在性は見事。

54《蹲る虎図 一幅 紙本墨画淡彩 寛政6年(1794)》
大画面に、至近距離でうずくまり威嚇する虎を描いたもの。鼻を中心に放射状に逆立つ毛並みを描き、その上から虎の縞模様を足している。離れて眺めると膨張し目が離れ太っているように見える。

56《富士越鶴図 一幅 絹本墨画淡彩 寛政6年(1794)》

富士山を山越えする鶴の群れを描いたもの。極端なまでに鋭角な富士は半分が雲に包まれている。山頂には龍を思わせるような黒い雲がかかる。山の向こうに落日の光。富士の稜線を越えて鶴がスローモーション映像のように滑空している。鶴のところだけ山のグラデーションが抜けている。マスキングして描いたものか。
57《◯蓬莱山図 一幅 絹本着色(薄彩色) 寛政6年(1794)》
蓬莱山は中国の東海上にあるとされる仙境。山頂にある楼閣に仙人たちが集まっている。空には仙人が乗った鶴の編隊が飛来し、松林に沿って海から亀の行列が上がってきている。手前は胡粉による点描で白い砂浜が表現されている。

第5章 画境の深化:寛政後期

63孔雀図 一幅 絹本着色 寛政後期(1794-99)頃 静岡県立美術館
大きな孔雀を中心に描いた花鳥図。牡丹、野薔薇、孔雀、金鶏、八哥鳥、雀、文鳥、それに蝶や蜘蛛まで様々な生き物を一画面に描いている。
66《巌上母猿図 一幀 紙本金地着色 寛政後期(1794-99)頃》
金の背景に一匹の猿が描かれている。乳房があることから雌である。左手には空だが、何かを抱えているような形をしている。大切な何かを失ったようにその表情は虚ろ。
71《月下水辺藪 一幅 絹本淡彩》
蜘蛛の巣をつけた大豆の木が植わっているのは、水草がわずかに顔を出す水辺。満月が上がったばかりなのだろう、光が浅い角度で入り、なだらかに波打つ水面に十の円を描いて映るのが、水の流れに次々に歪むのを同時に描いている。せせらぎが聞こえてきそう。
73《雨中釣燈籠図 一幅 紙本墨画 寛政年間(1789-99)》
水をたっぷりとふくませた画面に薄墨でぼんやりとにじませて竹と吊るした燈籠を描く。まるで雨に濡れたガラス越しの風景のよう。

74《◯月夜山水図 一幅 絹本墨画 寛政後期(1794-99)頃 公益財団法人頴川美術館 10/6〜11/5》
手前には蕨のような形の松が生えた山が意匠的に描かれ、遠景にも薄く山が続いている。塗り残した地の色で大きな月が表され、そこに松のシルエットが浮かぶ。叙情性あふれる画面。
75《橋杭弘法堂図 一幅 紙本墨画淡彩 寛政後期(1794-99)頃》
和歌山県串本町にある橋杭岩とお堂を描いたもので、画面中央に大岩と弘法堂と二本の松が描かれている。橋杭岩弘法大師が、鬼と力比べをして作りかけた橋の残骸と言われる岩が立ち並ぶ名勝。
79《瀧に鶴亀図屏風 六曲一双 紙本墨画淡彩 寛政後期(1794-99)頃》
右隻には豪快に流れ落ちる滝と、その先の水辺に14匹もの亀、亀、亀。画面の外を見据えているかのようなのもいて目が合うのに、笑わされる。左隻には九羽の丹頂が描かれ、うち三匹は仔。
80赤壁図屏風 六曲一双 紙本墨画淡彩 寛政後期(1794-99)頃》
蘇軾が長江に舟を浮かべて赤壁に遊んで詠った『赤壁の賦』を画題にしたもの。右隻は夏の「前赤壁の賦」、左隻は冬の「後赤壁の賦」が描かれている。岩山の景色の壮大さに反して、飄々とした線で描かれる波や人物が可愛らしく、とても長閑。
81《白象黒牛図屏風 六曲一双 紙本墨画 寛政後期(1794-99)頃 エツコ&ジョー・プライスコレクション》
右隻は身を伏せて精一杯体を小さくしても画面からはみ出す巨大な白象。背中に二羽のカラスが止まっている。左隻には地面に伏せた黒い牛。象ほどではないにしてもかなり大きい。お腹のすぐ側に白い子犬。極端に小さく描かれているので、牛の大きさが際立っている。
白い子犬は、本展のキャラクター。よいお顔をしています。参考までに、耳が立つ前の紀州犬の子犬はこんな感じ。
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成犬と違って口吻が短く、耳の間が広く離れてて横に付いています。子犬だから関節がゆるくてグニャグニャの姿勢で座るところも、よく描けています。

84《方寸五百羅漢図 一幅 紙本墨画淡彩 寛政10年(1798)》
一寸四方の小画面に五百人の羅漢を描いたもの。
村上隆の五百羅漢図展でも見ています。

 

 

展示室を出てすぐのところに写真スポットがありました。
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虎猫と子犬。猫派も犬派も両方喜ぶ取り合わせ。

 

大勢の鑑賞者がいた割に、比較的混乱なく観ることができました。入口付近はどんな展覧会でも混雑してしまうので仕方ありません。今回、お目当ての作品がどれも大きなものだったので、ゆったりと観られたのが幸いでした。とにかく、今回は、無量寺の襖を再現スペースで観ることができたのが良かった。しかも、畳に座って観るのと変わらない高さに設定してあって。紀伊半島の端っこまで行かなくても、新幹線駅の近くで見られるんですよ。なんてありがたい。実に遠征した甲斐のある展覧会でした。

 

三連休の締めくくりに、あつた蓬莱軒でひつまぶし。
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最後の最後で、満足のいく食事ができてよかった。