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NODA・MAP 足跡姫~時代錯誤冬幽霊@東京芸術劇場

野田秀樹作・演出によるNODA・MAPの足跡姫~時代錯誤冬幽霊を観ました。
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キャストは、宮沢りえ妻夫木聡古田新太佐藤隆太鈴木杏池谷のぶえ中村扇雀野田秀樹と豪華です。

 

場所は東京芸術劇場

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池袋は土地勘がなくて、南口に出るのに迷ってしまいました。地元からは山手線でぐるっと回るので、方向感覚なくして南北逆に歩いてしまいましたよ。
プレイハウスのS席でしたが、くじ運悪く二階席だったので舞台から遠く、役者の表情が見えずに残念でした。オペラグラス持ってくればよかった。舞台には桜の木が描かれた幕が下ろされていて、歌舞伎の芝居小屋のような花道(しかもスッポンつき)が作られていました。芝居中、花道を役者が行き来するシーンがとても多いので下手が楽しいと思います。

本公演は、2012年12月に亡くなられた十八代目中村勘三郎へのオマージュとして「肉体の芸術、残ることのない形態の芸術」について書かれた戯曲です。野田戯曲の特徴である言葉あそびが随所に入り、多くの物語が重なり合って出てきますが、ん十年前の野田戯曲と比べたら格段に本歌取りも少なく平易で、ちょっと拍子抜けしたくらいです。

個人的には万歳太夫の着物が扇柄だったのにクスッときました。こちら、先日東京国立博物館で見たばかりの《万歳図 1幅 宮川長春筆 江戸時代・18世紀》です。
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万歳(まんざい)は太夫と才蔵が一組になって新年のお祝いをして全国を回る伝統芸能です。現代の漫才の元。太夫は烏帽子をかぶって素襖(単の着物)に平袴で扇子を持ちます。ちなみに才蔵は大黒頭巾をかぶり、袋を背負って手には小鼓を持っています。

 第一幕80分の後に15分の休憩が入って第二幕65分という時間構成でした。

本公演の最大の見所は、なんといっても三、四代目出雲阿国を演じる宮沢りえ。贅肉なんてこれっぽっちもない美しい体が舞台で翻ります。舞台演出もとても見ごたえありました。 

 

以下、後半はほとんど覚えていませんが、本戯曲に含まれるネタの解説をメモとして少々。あらすじにも関わってきますので、これから観に行かれる方は読み飛ばしてください。

 

 

暫(しばらく):歌舞伎の演目。善男善女が悪人に捕らえられる危機一髪の時に「しばらくしばらく」と大声で現れた主人公が超人的な力で人々を救う物語。

女歌舞伎出雲の阿国のかぶき踊りが有名になると、それをまねた遊女や女性芸人の一座が次々と現れた。後に風紀を乱すという理由で禁止されて、少年が演じる若衆歌舞伎に変わる。しかし、これも風俗を乱すとして禁令になり、その後は成人し前髪をそり落とした野郎頭の男が演じる野郎歌舞伎の時代になる。

伊達の十役:歌舞伎の演目でひとりで十役をこなす。早変わりが見もの。助兵衛(すけべえ)のつく名前が続く。

出雲阿国安土桃山時代から江戸初期にかけて奇抜な服装や髪型をして世間の秩序に反した行動する人々を「かぶき者」とよんだ。出雲の阿国は「かぶき者」の扮装を舞台上でまねて踊る「かぶき踊り」で評判を得、江戸時代の大衆演劇、歌舞伎の祖となった。

万歳太夫:上記参照。漫才の祖。

太夫(遊女):遊女、芸妓の位階の最高位。江戸時代、既婚女性の多くが前帯していた。遊女は一夜妻という意味で前締めをする。

猿若勘三郎:江戸時代初期の歌舞伎役者。最初の芝居小屋となった猿若座(後の中村座)の創始者。

腑分けもの杉田玄白前野良沢らが千住の小塚原で行われた死刑囚の腑分け(解剖)を見学しオランダ語訳の解剖学書ターヘル・アナトミアを翻訳して解体新書を作った。

ねずみのフレデリックレオ・レオニの絵本の主人公。他のネズミが冬に備えて一生懸命働いている時に、フレデリックは全くうごかない。その理由を尋ねると寒い冬の日ために太陽の光を集めているという。そして、寒い冬の日他のネズミに促されて、フレデリックは四季の物語を話しだす。

由井正雪の乱慶安の変徳川家光の死後、由井正雪が幕府政策への批判と浪人の救済を掲げて各地で浪人を集めて挙兵し幕府転覆を計画したが、決起寸前に密告されて失敗し、由井正雪は自刃した。

穴 HOLESルイス・サッカーの小説。主人公スタンリーは無実の罪で少年矯正施設に送られ、大地に穴を掘らされる苦行の日々を送る。そこで出会う友人の名前がゼロ。

安寿と厨子王丸:陥れられて流罪となった父の元へ向かう旅の途中、姉弟は母と共に人買いにさらわれる。売られた先で姉弟は酷使され、姉は弟を逃がした後に沼に投身する。厨子王は後に一家を再興し、報恩と復讐を果たし、佐渡で母との再会する。

片岡仁左衛門:歌舞伎役者の名跡。十五代目は屋号松嶋屋人間国宝

足跡:歩いた跡。人の経歴や業績。

長浜ラーメン:元祖長浜屋(ながはまや)と元祖ラーメン長浜家(ながはまけ)がある。そして全く同じ名前の別店で元祖ラーメン長浜家があり、名称を巡って訴訟問題になった。他にも「元祖」「長浜」が屋号につくラーメン店が複数ある。

たたら:たたらは鉄を作るところ。日本刀の原料玉鉄(和鋼)を作るために、砂鉄から和鋼を製造する日本独自の製鋼法がたたら吹き。炉に点火した後、ふいご(板を踏むことで上下運動により風を送る仕組み)で風を炉内に送り続ける。奥出雲地方では、古代より製鉄業が盛んだった。

チルチルとミチル:劇作家、モーリス・メーテルリンクの童話劇。貧しいきこりの子の兄妹は、幸福の象徴である青い鳥を探しに行く。

野田版 研辰の討たれ:歌舞伎狂言研辰の討たれの野田版で十八代目中村勘三郎襲名披露狂言として上演された。研ぎ師から侍になった研辰が、自分が斬られる刀を研ぎながら散る紅葉に例えて「生きてえなあ」「散りたくねえなあ」という。

幽霊の音ラテン語系の言語で子音の H(エッチ)は発音しない黙字になることが多い。 

:咲いている期間が短く一気に散ることから、滅びの美の象徴とされる。京鹿子娘道成寺では舞台全景が桜で覆われるが、十八代中村勘三郎の襲名披露で演じられた。