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岩佐又兵衛と源氏絵@出光美術館

出光美術館で開催中の岩佐又兵衛と源氏絵展に行きました。昨年、山種美術館で《◎官女観菊図》に心奪われて以来、岩佐又兵衛の展覧会を待ち焦がれていました。

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まずは、出光美術館に行くときの定番コース。スペシャル・サンドゥイッチで腹ごしらえ。
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 満腹になって出光美術館に向かうと、美術館の前に結構な人だかり。

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私と同じ又兵衛ファンかと思いましたが、そんなわけはない。すぐ横が帝国劇場なので入り待ちでしょう。出光美術館は帝劇ビルの9階にあるのです。

 

出品リストをもらって、いざ展示室へ。
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 桃山時代から江戸時代はじめに活躍した画家・岩佐又兵衛(いわさまたべえ 1578-1650)。実感豊かな風俗画や絢爛豪華な絵巻群のほか、あらゆるテーマに貪欲に取り組んだ又兵衛ですが、画業の全体を見渡せば、その軸足は常に〈古典〉を描くことに置かれています。今展では、古典中の古典である『源氏物語』を描いた絵画(源氏絵)に大注目!又兵衛芸術に通奏低音のように流れる、優雅にして野卑な魅力を紹介します。

 

以下、気になったものを記します(◎は重要文化財、◯は重要美術品、所蔵先のないものは全て出光美術館蔵)。

第1章 〈古典〉をきわめる ―やまと絵の本流による源氏絵

2《源氏物語画帖 伝 土佐光吉 室町- 桃山時代(16世紀)》
色彩豊かなやまと絵で、玉蔓、藤裏葉、柏木、梅枝、若菜上、胡蝶、若菜下、初音、常夏、蓬生が描かれている。

3《◎源氏物語画帖 土佐光吉 慶長18年(1613)頃 京都国立博物館
美しく繊細な筆遣いのやまと絵。色鮮やかに、若紫、末摘花、紅葉賀、花宴、葵、賢木、花散里、須磨が描かれている。
紅葉賀では、若紫が人形遊びをしている。実に豪華なシルバニアファミリーです。
花宴は、廊下を扇を手にした六の君(朧月夜)が歩いているのを光源氏が目にする場面が描かれている。本来は夜更けのシーンだが、襖や御簾の模様まで明るく描かれている。

第2章 ひとつの情景に創意をこらす ―又兵衛の源氏絵の新しい試み

又兵衛は、工房の弟子たちを動員して数多くの源氏絵を手がけました。ただし、興味深いことに、又兵衛のサインや印章をそなえる源氏絵は、どれも一枚の画面にひとつの情景だけを描くという趣向を示しています。物語の全体像を俯瞰的にとらえるよりも、個々の特徴的なエピソードに向き合い、その内容を深く理解することこそ、源氏絵の制作に臨む又兵衛の基本的な姿勢だったといえます。この章では、又兵衛による単一場面の源氏絵を通じて、その斬新な表現の核心に迫ります。

4《○源氏物語 野々宮図 岩佐又兵衛 桃山 - 江戸時代(17世紀)》
本展覧会のポスターに使われた絵。元は福井時代に描かれた代表作の旧金谷屏風を軸装したもの。
江戸時代の福井の豪商金屋家に伝わっていた「旧金谷屏風」は、竜や虎、源氏物語、中国の故事など幅広い題材と技法の12枚の絵でできていた。元は、右から順に、虎図、源氏物語 花宴図、源氏物語 野々宮図、龐居士図、老子出関図、伊勢物語 鳥の子図、伊勢物語 梓弓図、弄玉仙図、羅浮仙図、唐人抓耳図、官女観菊図、雲龍図となっていた(近年、官女観菊図も源氏物語六条御息所斎宮が下向する一場面であると判明した)。
野々宮図は賢木を描いたもので、晩秋の頃、下向しようとしている六条御息所に再び気持ちを伝えに行く場面を描いている。物語で野々宮は、小柴垣を大垣にして連ねた質素な構えで、神々しい丸木の鳥居、篝火を炊いた番所が浮いて見える、人の少ない湿っぽい空気と書かれている。光源氏の顔は、又兵衛の人物描写の特徴である特徴豊頬長頤(ほうきょうちょうい)と呼ばれる、ふっくらとした頬と長い顎の顔。着物の柄も実に細やかで美しい。小柴垣や小菊、鳥居の紙垂を揺らす風がこの先の不安な場面を予感しているかのよう。
官女観菊図を初めて見たとき、自分が絵に吸い込まれていくような気がしましたが、この絵も同じ。又兵衛の白描はとても透明感があって美しく感じます。

5《和漢故事説話図 須磨 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀)福井県立美術館》
和漢故事説話図は旧岡山藩主池田家に伝来したもので、和漢の物語や故事などを題材にした12の絵でできた巻物だった。今は絵ごとに分けられて軸装されている。
須磨は、三月一日、海に禊に行った光源氏は突然の嵐に合い急いで帰宅した。美しい人に心惹かれた海の竜王が嵐を起こしたのだった。荒れ狂いふくらむ波、雷鳴と雷光、斜めに走る雨。木々はしなり、桜が散る。風に膨らんだ御簾越しに光源氏も強い風を受けている。

7《和漢故事説話図 浮舟 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀)福井県立美術館》
浮舟は、薫が宇治に匿っていた姫を、深い雪の日の夜、匂宮が連れ出して宇治川を小船で渡る場面。左の木々が繁茂している場所が舟をつけようとしている橘の小嶋だろう。空には黒い有明の月が浮かぶ。
二人に想われて困惑した浮船は、後に思い悩んで川に身を投げる。

8《源氏物語 総角図屏風 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀)細見美術館
総角の宇治川での紅葉狩りを描いた屏風。紅葉の枝を厚く屋根に葺いた舟は川を上り下りしながら奏楽をし、その音は山荘へも届いている。音楽をする人は紅葉の枝を冠に挿して海仙楽の合奏をしている。
左の橋の下に柴のようなものを運ぶ小舟が描かれている。又兵衛は身分によって顔を描き分ける。舟の上の彼らの顔はふくよかでないことから、身分が低い者だとわかる。紅葉といえば、紅葉賀の場面で、試楽にも関わらず光源氏が真剣に美しく舞うのを見て「もの見知るまじき下人などの、木のもと、岩隠れ、山の木の葉に埋もれたるさへ、すこしものの心知るは涙落としけり」とある。紅葉賀の艶やかな場面の演出をここに追加したのかもしれない。

第3章 さまざまな〈古典〉を描く ―又兵衛の多彩な画業

12《三十六歌仙・和漢故事説話図屏風 伝 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀)》

屏風の上に三十六歌仙が並び、下には源氏物語伊勢物語、飲中八仙図などの日本、中国の故事説話を画題に様々な画風の絵が並んでいる。
旧金谷屏風にしても和漢故事説話図にしても、小さく描いて大きな作品に仕立てるやり方が多いのは、分業で作る側として効率的だからだと想像する。画題当てをするのは確かに楽しいけれど、屏風そのものとしてはどうだろう。

14《○在原業平図 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀)》
光源氏と並ぶ古典名作、伊勢物語の色男。
野々宮図の光源氏と共通するところが多い美しい立ち姿です。何度も行ったり来たりして見比べました。

15《○伊勢物語 くたかけ図 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀)》
伊勢物語十四段陸奥の話。朝早く、従者を伴い女の元から帰ろうとする男。田舎の女はそれをくさかけ(鶏)が早く鳴くからだと不満げ。屋根には番の鶏。夜明けの薄暗さを薄く掃いた墨で表している。

第4章 単一場面から複数場面へ ―又兵衛の〈型〉とその組み合わせ

22《源氏物語図屏風 伝 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀)大和文華館》

上段右から若紫、蓬生、澪標、下段右から、明石、絵合、若菜上が描かれている。金雲は厚みがあり文様が入って豪華である。

23《源氏物語図屏風 伝 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀)高津古文化会館》
右から、桐壺、紅葉賀、澪標、絵合、玉蔓、胡蝶が描かれている。 

第5章 物語のながめ ―いわゆる54帖屏風にみる〈古典〉と創造

54帖をすべて書き込んだ屏風です。屏風の豪華さはもちろんですが、目を凝らして物語を読み取るかと思うと、あまりの量に絶望のため息が出ました。後半にこれはきつい。

27《源氏物語図屏風 伝 土佐光吉 桃山時代(17世紀)》
54帖がみっちりと描かれていて、すさまじいです。面積の半分は金雲ですが、54場面が細やかに描かれているので、単眼鏡を使って観ようとするとあまりに多すぎて気が遠くなりそうでした。お顔はやや固い表情。道順ではこの屏風のすぐ前にこの屏風から絵を抜き出して、源氏物語54帖のあらすじが描かれたパネルがあります。

28《源氏物語図屏風 岩佐勝友 江戸時代(17世紀)》
岩佐勝友は又兵衛の弟子。六曲一双の屏風で、左隻右隻にそれぞれ源氏物語の二十七帖を並べて描いている。色彩鮮やかで金雲も輝きが残り、とても保存状態が良い。又兵衛と比べて顔の表情がきつめ。

30《源氏物語図屏風残闕 葵 伝 俵屋宗達 江戸時代(17世紀)》
描かれているのは、賀茂祭の日見物に出かけるため、光源氏自ら若紫の髪そぎをする場面。俵屋宗達は大好きな絵師の一人なのだけれど、又兵衛の後に見ると単純化された顔の描き方に笑いが出ます。

第6章 江戸への展開 ―又兵衛が浮世絵師に残したもの

34《石山寺紫式部図 菱川師宣 江戸時代(17世紀)》
当時一番の人気絵師だった菱川師宣紫式部は、源氏物語石山寺で琵琶湖上の月を眺めていて着想したという伝承を絵画化したもの。

36《十帖源氏 野々口立圃 江戸時代(17世紀)早稲田大学図書館》
絵入りの版本で全十巻。130の挿絵に源氏物語のあらすじが書かれ、親しみやすいものとなっている。内容をさらに簡略したのが横に並べて展示されている《おさな源氏》である。

 

とても気持ちのよい時間をすごしました。文学としての源氏物語が優美で面白いのはもちろん、岩佐又兵衛が読者の想像の世界を損なうことなく清らかに美しく描いていて、鑑賞している間ずっと夢心地でした。これから行かれる方は、多少なりとも源氏物語を頭に入れて行ってください。本展示は話を知っていると知らないとでは大きく感じ方が違うものなので、予習が大事だと思います。もちろん、会場にも大きく場所を取ってあらすじの展示がありますけども。

先日のDavid Bowie is から日を空けずに源氏物語で、美しい方の一生を辿るような展示が続き、なんだか少女時代に戻ったような気分になりました。

休憩室から望む皇居。
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今にも雪が舞いそうな空でした。

休憩入れた後にも野々宮図の前に戻り、今度はソファに座って長く眺めました。本展示のポスターになっているので何度も目にしていますが、やはり、これが一番素敵です。又兵衛の白描もっと見たいなあ。

源氏物語の余韻がさめず、売店で紋かるた 源氏香図を買いました。
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源氏香とは、五つの香りからどれとどれが同じだったかを5本の縦線をつないだ52通りの模様で表し、その回答が「源氏香の図」のどの物語に該当するかを当てる遊び(源氏物語五十四巻だが、桐壷と夢浮橋の巻を除いて五十二巻としている)。このかるたは、その源氏香図にちなんだもので、歌札、下の句札、巻名札としてそれぞれ52枚ずつの香図入りの絵札が入っています。百人一首のように上の句を詠んで下の句を引いたり、神経衰弱のように模様あわせをしたりと遊び方いろいろ。このかるたで遊びながら、うろ覚えの源氏物語をしっかり覚えたいと思います。