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刀剣鑑賞の歴史@東京国立博物館本館

現在、東京国立博物館本館14室で、「刀剣鑑賞の歴史」の特集展示をしています。未だ面白みを見いだせずにいる日本刀の世界ですが、よい機会なので14室と13室の刀剣を集中して観ることにしました。

14室  刀剣鑑賞の歴史

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刀剣の鑑賞は、「姿(すがた、形状)」、刀身表面にあらわれる木目のような模様の「地鉄(じがね)」、そして焼刃の模様である「刃文(はもん)」などを見どころにしています。姿は制作された時代ごとの特徴、地鉄は流派の特徴、そして刃文は刀工自身の特徴が表れるとされ、その分析は近代以前から既に高度に発達していた歴史があります。この特集では、茎(なかご、刀身の柄)に作者の銘が残る刀剣と、同一作者の無銘の作品を展示し、刀剣がどのような視点から鑑賞されてきたかを辿ります。 

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本特集では、銘があるものないものの二口を並べて展示していました。「姿は制作された時代ごとの特徴、地鉄は流派の特徴、そして刃文は刀工自身の特徴が表れる」とありましたので、特にその三点に注目して鑑賞しました。

以下、気になったものについてメモを残します(◉は国宝、◎は重要文化財、◯は重要美術品)。写真右下に、拡大して撮ったものを合わせて示しました。

《古今銘尽大全 4冊のうち1冊 江戸時代・享保2年(1717)》
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亨保2年(1717)に出版された刀剣書で、万治4年(1661)刊行の『古今銘尽』の第4版にあたる。刀工の流派や師弟関係など、中世から続く刀剣の理解が集約されており、また刀工の作風が詳述されているなど、刀剣鑑賞の長い歴史を物語るものである。

正宗、貞宗、廣光の特徴が書かれている。

古備前正恒の比較
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《太刀 (銘 正恒) 1口 古備前正恒 平安時代・12世紀》
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正宗は「古備前」とよばれる平安時代備前鍛冶の代表的刀工。地金が美しく、直刃と小乱の刃文が上手である。刀剣書では正恒一条天皇(986~1011在位)の頃とするが、同名が数工おり、年代差もあると考えられる。尾張徳川家から大正天皇に献上された。

刀身には溝があり根本から大きく反る。地鉄に、映り(指跡のような影)があり、刃文は直線的である。

《刀 (無銘) 1口 伝古備前正恒 平安時代・12世紀》
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元来は太刀で、磨上を施して刃長(刃わたり)を短くした無銘の刀である。映りの立った地金、沸のよくついた小乱を焼いた刃文は古備前の特徴を示し、とりわけ潤いのある地鉄と刃中の微細で豊富な変化は古備前のなかでも正恒のような名工の作品に多い。

刀身には溝があり、根本から大きく反る。地鉄に白点が少ない。刃文は際が不明瞭で、わずかに波打っている。

長船光忠の比較

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《◎太刀 (銘 光忠) 1口 長船光忠 鎌倉時代・13世紀
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光忠鎌倉時代中期に備前国の長船に居住した刀工で、長船派の事実上の始祖といわれる。太刀の姿には二種あって、身幅が広く猪首鋒となった豪壮なものと、これよりは細身で中鋒となったものがあり、これは後者の太刀姿をしている。地鉄は、板目肌がよく約んで映りが鮮やかに立ち、刃文は丁子刃に蛙子丁子刃や袋丁子刃を焼き華やかなものとなる。長船派よりも早く鎌倉時代前期から中期に栄えた一文字派との関連を窺わせる作品である。

刀身は細く、反りは上の古備前正恒と比べて極端ではない。地鉄は板の木目ように模様が入り、刃文は波打っている。

《◎刀 (金象嵌銘 本阿(花押)光忠) 1口 長船光忠 鎌倉時代・13世紀》
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中世を通じて備前国で繁栄した長船派は、刀剣古伝書では近忠が始祖と言われるが、近忠には現存作品がないことから、子と伝える光忠が一派の事実上の祖として考えられている。光忠鎌倉時代中期の刀工で、映りの立った精緻な地鉄に丁子刃に蛙子丁子刃を交えた刃文を特色とする。
この刀は、江戸幕府に刀剣の研磨や鑑定で仕えた本阿弥家の13代、光忠光忠の作と極めたものである。磨上げられて寸法が短くなっているが、身幅が広く猪首鋒となった豪壮な姿であり、地鉄は、板目肌がやや肌立って乱映りが鮮明に立ち、刃文は、丁子刃におおきな蛙子丁子刃や袋丁子刃、加えて飛焼が交じり、華やかなものとなる。徳川将軍家に伝来した。

こちらは刀身が太く切先が短い猪首。反りは上の有銘と同じく極端ではない。刀身に溝がある。地鉄は細かく白点が浮いて木目のように模様になり、刃文は凸凹と乱れている。

相州行光の比較

《◉短刀 (銘 行光) 1口 相州行光 鎌倉時代・14世紀
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作者は相模国(神奈川県)鍛冶の行光である。通称を藤三郎といい、新藤五国光の子とも弟子とも伝え、正宗の父とも養父ともいわれる。
鎌倉時代の短刀に共通する形で、師の作風を継ぐ直線的な刃文の直刃から、正宗の曲線的な乱れ刃につながる中間の作風を特徴とし、この短刀はその典型である。
行光の銘のある作はごく少なく、これと宮内庁所蔵の短刀が代表作である。
加賀前田家に伝来した。

刀身は細く先端近くが細くなる。切先に横手筋が見えない。地鉄は白点が浮いて模様になり、地鉄との境が明瞭で直線的な刃文がある。

《短刀 (無銘) 1口 伝相州行光 鎌倉時代・14世紀》
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相州行光の広い作風は古くから指摘されるほど理解が難しく、前田家伝来の短刀(F-19967-1)のような直刃のものから乱刃の作まで様々なものがある。この無銘の短刀は、直刃調でありながらも、金筋や飛焼がみられ、比較的変化に富んだ作風を示す。

刀身は太く樋(溝)がある。地鉄には白点が模様を作り、刃文は直線的だが際が不明瞭でぼんやりとしている。地鉄に一部、飛焼と呼ばれる模様が入る。

《◉刀 (金象嵌銘 城和泉守所持 正宗磨上 本阿(花押)) 1口 相州正宗 鎌倉時代・14世紀
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作者の正宗は相模国(神奈川県)の刀工。五郎入道と名乗り、鎌倉時代末期に活躍した名工である。
作品には身幅の広いものとやや細いものがあるが、これは細身のもの。鎌倉時代の太刀姿をしのばせる美しい作品で、地鉄や変化に富む刃文は、正宗作刀の中でも逸品である。
江戸時代初期の刀剣鑑定家、本阿弥光徳が正宗作と鑑定し、慶長14年(1609)に埋忠寿斎が研ぎ上げて金象嵌の銘をほどこしたと記録にある。銘にある城和泉守は武田信玄の家臣で、武田氏滅亡後徳川家康に仕えた城昌茂である。のち弘前藩主の津軽家に伝わった。

刀身は細く長い。地鉄に白点はほとんど見えない。刃文は大きく波打つように乱れている。

《◉刀 (無銘) 1口 相州正宗(名物 観世正宗) 鎌倉時代・14世紀
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作者の正宗は五郎入道と称し、鎌倉時代末期に活躍した相模国(神奈川県)の刀工。藤三郎行光の子とも養子ともいい、名工として有名である。
身幅はやや細いが、地鉄のよさ、沸と呼ばれる粒子のきらめきが無類である。もとの茎をきり詰めて寸法を短くしており、茎には梵字などの彫物が残っている。
能楽の観世家が所持していたことから「観世正宗(かんぜまさむね)」と称されるが、江戸時代の刀剣書『享保名物帳』によれば、徳川家康が観世家から召し上げて秀忠に与え、以後家臣との間で拝領と献上を繰り返したという。明治維新後、徳川家から有栖川宮に献上、同家を継いだ高松宮家に伝えられた。

 刀身には溝があり細く長い。地鉄には白点があり木目のような模様がある。刃文は大きく波打ち、際が不明瞭。

13室 刀剣

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《◉太刀 1口 長船景光(号 小龍景光) 鎌倉時代・元亨2年(1322)
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 景光は、鎌倉時代末期の備前長船派の正系の刀工。この太刀は、小板目のよく約んだ地鉄に、直刃調の逆足が入った刃文で、景光の最高傑作にあげられる。表裏に棒樋を彫り、その元に小さく倶利伽羅龍(表)と梵字(裏)を浮彫としていることから「小龍景光」の号がある。

刀身は細く、溝がある。地金の白点は目立たないが根本付近は模様が見える。刃文は直刃。

《◎刀 1口 相州正宗(名物 石田正宗) 鎌倉時代・14世紀
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無銘であるが、沸の美を表現した相州伝の作風で、石田正宗の名がある。その由来は、石田三成が所持したことにより、刀身には受け傷がありことから、石田切込正宗とも称される。関が原の戦いの前年である慶長4年(1599)に、三成から家康の子の結城秀康に贈られた。

刀身は細身で長く、根本でしなっている。地鉄には遠目からみてもわかるほど白点が入り、木目のような模様が見える。刃文は全体的に波打ち、白濁している中にも模様が見える。布で押さえられている部分の近くに欠けがある。

 

静嘉堂文庫の「超・日本刀入門」展をきっかけに少し勉強しましたが、未だ、刀剣鑑賞の楽しみがわからずにいました。刃文やら映りやら言わず、鉄組織で分類してくれればわかりやすいのにと余計な考えが頭を過るのが原因で、解析ではなくモノの見方の話だというのが、なかなかしっくりこなくて。しかし、今回の展示がきっかけで、少しずつ見えてきたものがありました。姿、地肌、刃文のこの三点に集中できたのが、わかりやすかったように思います。以前は難解に思えたキャプションもだいぶ読み慣れてきました。専門用語が多いものの、意味がわかるようになると、絵画などと較べて見所がしっかり書かれている分、実はわかりやすい分野なのかもしれません。

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