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「ベルギー奇想の系譜」展@Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されているベルギー奇想の系譜展に行きました。
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www.bunkamura.co.jp

いつものように、気になったものをメモとして残します。

第1章 15-17世紀のフランドル美術

ボスの世界|ブリューゲルの世界|ルーベンスの世界

この章ではフランドル地方を中心に展開する「奇想」のルーツをボスの作品に求め、ブリューゲルの時代への継承と、 ルーベンスによる恐れや怒りなど、激しい感情の表出としての新たなる展開を見ていきます。

1《トゥヌグダルスの幻視 ヒエロニムス・ボス工房 1490-1500年頃》
12世紀に書かれた、ベネディクト会系の修道士マルクス筆の異世界幻視譚「トヌクダルスの幻視」に基づいた画。貴族トゥヌクダルスが発作で倒れた後、天使の導きで死後の世界を幻視し、目覚めた後にそれを語ったという内容。ボスはトゥヌクダルスの見た「暗闇の世界」をキリスト教七つの大罪(傲慢、嫉妬、貪欲、邪淫、大食、激怒、怠惰)として描いた。
本作品の横に科学分析結果を示したパネルがあった。画板に使われた二枚のオーク板の年輪測定で1479年の伐採と判明。伐採後10年程度で使われたとして製作年を推定し、ボス存命中の作品と判定された。二点、絵具断面の光学顕微鏡写真に特定成分を示した図があった*1。赤いラックに使われた絵具が、《東方三博士の礼拝》と同じものであったことから、工房作と帰結した。
本展の目玉で奇怪な生き物がたくさん描かれています。私のお気に入りは赤いベッドに向かって青い壁面を上るモグラみたいなの。鼻から金貨を出している修道女の頭の上で口を開いているのは、リヴァイアサンの地獄の口のモチーフでしょう。時間を忘れて見入ってしまいそうになるが、立ち止まりすぎるのも何なので、他のを見て、また戻るなんてことを繰り返す。作品リストの最後に図解があり、わかりやすい展示でした。

2《聖クリストフォロス ヒエロニムス・ボス派 1508年》
聖クリストフォロスは、旅人を守護する聖人として大航海時代にしばしば絵画に描かれた。杖をつき赤いマントをつけた聖クリストフォロスが幼子イエスを担ぐ。旅人に降りかかる厄災や誘惑が奇怪な船や生き物で現されている。ヒエロニムス・ボスの三連画《聖アントニウスの誘惑》の中央画にいる鼻の尖った修道女が、売春宿を連想させるテントの姿で描かれる。

3《聖クリストフォロス ヤン・マンディン》
2 を参照して描かれたもの。修道女だったテントが、男になっている。

4《パノラマ風景の中の聖アントニウスの誘惑 ヤン・マンディン》
画面中央で祈っているのが聖アントニウス。黒いマントが悪魔の顔になっている。ボスの追従者らしいモチーフがあふれている。卵、ハマグリ、水の中の裸婦。悪魔との空中戦はマルティン・ショーンガウアーの《聖アントニウスの誘惑》に影響されたもの。題名のパノラマとは、見晴らしのよいという意味で使われている。絵の広がりのわりに小さな画である。

5《聖アントニウスの誘惑 ヤン・マンディン》
水の中で、リュートを手にした女が裸婦を伴って聖アントニウスを誘惑する。裸婦のポーズはリンゴを差し出すイブを連想させる。カワセミは悪しき習慣をもつ男を意味するモチーフ。聖アントニウスは左手を開いた聖書に置いて誘惑を退ける。
作品リストではピーテル・ハイス(帰属)とあったが、所蔵のド・ヨンケール画廊のサイトでマン・ヤンディンとなっていた。兵庫展ではピーテル・ハイス(帰属)のが展示されていたようなので、修正しそこねた模様。

6《ソドムの火災、ロトとその娘たち ヘリ・メット・ド・ブレス》
旧約聖書にある堕落した町ソドムが神の怒りで滅亡する場面を描いたもの。空には無数の鳥。左には燃え盛る町、遠くに見える青い山にあいた洞穴から続く道に逃げるロトと娘の姿がある。近景には白鳥のいるのどかな風景が描かれている。画面手前、河の左岸に描かれる岩の上にフクロウがいる。
ヘリ・メット・ド・ブレスは風景画家としてよく知られ、小さなフクロウがよく画中に描かれることから、特に人気のあったイタリアではシベッタ(イタリア語でフクロウ)と呼ばれた。日本の絵巻でよく見る異時同図法が使われている。

8《幼子イエスを運ぶ聖クリストフォロス フランドルの逸名の画家 1560-1570年頃》
右手を高くあげた幼子イエスの足はタラになっている。赤いマントの聖クリストフォロスは困惑した顔。手にした杖にフクロウがいる。木に吊るされた巨大なタラ。水面には魚型の戦艦が浮かぶ。この戦艦は 9 からの引用。

9《聖クリストフォロス(または聖アントニウス)の誘惑 ヒエロニムス・ボスの模倣者(原画)、ヨアネス&リュカス・ファン・ドゥーテクム(彫版)、ヒエロニムス・コック(出版) 初版:1561年》
右で岩に手を置きひざをついている男が聖人。目の前で繰り広げられる光景に目を見開いている。水面には魚型の戦艦が浮かぶ。
どうやら聖人を誘惑するという画題がはやり過ぎて、聖クリストフォロスでも聖アントニウスでもどちらでもよくなってきたようだ。

13《道化の家族と卵の踊り ヒエロニムス・ボスの模倣者(原画)、「西方の風」店(出版) 1570年以降》
道化の男と、その息子が卵の飾りをつけて踊っている。その背後にはテントがあり、その前には四人の赤子を入れた籠。女達が赤子の世話をしている。
道化の帽子が鶏であることから、邪淫をテーマに描いたものだろう。

14《包囲された象 アラールト・デュハメール(版画に基づく)、ヨアネス&リュカス・ファン・ドゥーテクム(彫版)、ヒエロニムス・コック(出版) 1563年》
アラート・デュハメールの同主題の版画を基に、ボスと親しかった彫版師が製作。当時、象の戦場での力強さがよく描かれていた。1563年にアントワープで象のパレードがあったことが記録に残る。本作は同時代のニュースを戦う象の主題と結び合わせたもの。
象のパレードがあったと知って自然と暁斎の《西城舶来大象之写真》が思い出された。

19《マレヘムの魔女 ピーテル・ブリューゲル(父)(原画)、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(彫版)、ヒエロニムス・コック(出版) 1559年頃》
マレヘムに住む魔女に、愚者の象徴とも言うべき頭の中の石を取り出してもらうために集まる人々を描いたもの。大きなつば付のケープが目を引く。その形が、鳥のくちばしと響きあう。右端にいる頭まですっぽりと布で覆った老婆は、ナイフのダブルイメージ。卵、フクロウ、楽器といったボス風モチーフも描かれている。

20《魔術師ヘルモゲネスの転落 ピーテル・ブリューゲル(父)(原画)、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(彫版)、ヒエロニムス・コック(出版) 1565年》
画面中央でひっくり返るっているのが魔術師ヘルモゲネスで、その右で杖を持ち、右手をあげているのが大ヤコブ十二使徒ヨハネの兄)。大ヤコブは、ヘルモゲネスと力試しをする。ヘルモゲネスが悪魔や化物を呼び寄せると、大ヤコブはそれを跳ね返したため、逆にヘルモゲネスがその悪魔らに襲われる。ヘルモゲネスの転落と響きあうように、悪魔や化物も背を反ってひっくり返っている。ヒキガエルやトカゲは魔術を意味するモチーフ。

21-27《「七つの大罪」シリーズ  ピーテル・ブリューゲル(父)(原画)、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(彫版)、ヒエロニムス・コック(出版) 1558年頃》
七つの罪源シリーズは、激怒、怠惰、傲慢、貪欲、大食、嫉妬、邪淫からなる。それぞれに即したシンボルとモチーフが散りばめられている。激怒は熊とナイフ、怠惰は驢馬と蝸牛、傲慢は孔雀と鏡、貪欲はひき蛙と金貨、大食は豚と酒、嫉妬は七面鳥と靴、邪淫は雄鶏と蜥蜴といったところ。
ブリューゲル(父)は1525年から1530年頃の生れとされているので、20代後半あたりで出版されたことになる。

28-31《「七つの徳目」シリーズより4点 ピーテル・ブリューゲル(父)(原画)、ピーテル・ハレ(帰属)(彫版)、ヒエロニムス・コック(出版) 1559-1560年》
七つの徳目シリーズは、希望、正義、剛毅、節制の4点が展示されていた(その他に愛徳、賢明、信仰がある)。画面の中心には、それぞれの画題に即したモチーフを手にする女神が描かれている。

32《冥界のアエネアスとシビュラ ヤン・ブリューゲル(父) 1600年頃》
既に「第二のボス」という名声を得ていたブリューゲルが、ボス風の奇怪な生き物がうごめく冥界を描いた作品。画面中央に遠景としてバベルの塔らしき建物があるのは見逃せない。シビュラは恍惚状態で神託を伝えたとされる古代の巫女。この画では、ローマの建国者アエネイスの冥界への旅路に同伴した女性として描かれている。

34《救世主イエスモノグラムが現れた煉獄 ペーテル・パウルルーベンス(原画)、コルネリス・ハレ(彫版) 1610-1640年頃》
煉獄で炎に身を焼かれる人々とそれを助けようとする天使。雲の合間から、イエス・キリストモノグラムが現れる。IHS はイエスを意味するモノグラム。太陽のマークにこのモノグラムの組み合わせは、イエスズ会の紋章として有名。

35《反逆天使と戦う大天使聖ミカエル ペーテル・パウルルーベンス(原画)、リュカス・フォルステルマン(父)(彫版) 1621年》
炎の盾と炎の剣を手にした大天使ミカエルが、天使と共に悪魔や魔物を追い払う。イタリア留学中のミケランジェロ研究を生かし、悪魔でさえも力強く美しい肉体で描いた。

36《悪魔たちから貶められ、妻から苛まれるヨブ ペーテル・パウルルーベンス(原画)、リュカス・フォルステルマン(父)(彫版・刷) 1622-1628年頃》
旧約聖書ヨブ記には、悪魔によって全ての財産と家族を奪い取られ、神への無償の信仰心を試されるヨブの姿が記されている。この画は、全てを失ったヨブがさらに悪魔から皮膚病にされたのを見て、ヨブの妻にまで見放される不条理さを描いたものである。瓦礫の中、身包みを剥がされ、病に苦しむヨブのうつろな表情。有翼で角のある悪魔も的確な人体描写を基に描かれている。

39《ライオン狩り ペーテル・パウルルーベンス(原画)、スヘルテ・アダムスゾーン・ボルスウェールト(彫版) 1625-1629年頃》
躍動感のあふれる狩猟図。熾烈な戦いは、二匹のライオンの方が優勢ぎみ。一人は明らかに気を失っているし、もう一人は落馬して腹を噛まれている。重装備の騎士がライオンを背後から狙っているが、果たして間に合ったかどうか。

40《カバとワニ狩り ペーテル・パウルルーベンス(原画)、ピーテル・クラースゾーン・サウトマン(彫版・出版) 1644-1650年》
同じくルーベンスの狩猟図。ワニはともかく、カバの迫力がある。こちらは、犬の加勢もあって人側が優勢のよう。ポインター系とボクサー系の犬がいる。

第2章 19世紀末から20世紀初頭のベルギー象徴派・表現主義

ロップスの世界|ベルギー象徴派|アンソールの世界

この章では工業化・都市化が進む中で、科学の世紀に背を向け、想像や夢の世界など人間の内面を表現する美術家たちが現れる過程を見ていきます。

41《舞踏会の死神 フェリシアン・ロップス 1865-1875年頃》
カトリックの司祭がミサで着るガウンを身にまとった、死神として骸骨となった女が恍惚のダンスを舞う。フェリシアン・ロップスは反カトリック的、反ブルジョワ的強迫観念があった。

48《毒麦の種を撒くサタン フェリシアン・ロップス 1882年》
薄い月明かりの夜、天空から地上に向かって無数の赤ん坊を放つ黒い影。サタンはつばの大きな帽子を被り、骸骨のような細い体で描かれている。

51《娼婦政治家 フェリシアン・ロップス (原画)、アルベール・ベルトラン(彫版) 1896年》
天使の舞う美しい世界を、目隠しをした妖艶な娼婦がブタを連れて歩いているが、その床には四つの芸術が刻まれている。私利私欲に肥えた政治家や資産家への痛烈な皮肉が込められている。

67《蒼い翼 フェルナン・クノップフ 1894年》
中心をわざと外した構図がスナップ写真のようだが、実は、自ら描いた油彩画《青い翼》を撮影して彩色したプラチナ写真。モデルは妹マルグリット・クノップフ。前に置かれた有翼の彫刻は、大英博物館所蔵のブロンズ像の石膏製レプリカ。画家の家にあったものだという。本来は両翼だが、片翼で描かれている。

68《アラム百合 フェルナン・クノップフ 1895年》
アラム百合はカラー(サトイモ科のオランダカイウ)のこと。カーテンを背にし、身の丈ほどもあるカラーの横にたたずむ白いドレスの女。このドレスは画家のお気に入りだったようで、他の絵にも登場している。画面の中央から外れて左側に大きな空間があるのが、不安感をもたらす。画面右下に横顔の彫刻のようなものがあるのが気になって仕方がない。単なる空目?

73《赤死病の仮面 ジャン・デルヴィル 1890年》
12時を示す時計の前に佇む実体感のない人物。
ジャン・デルヴィルはベルギー象徴主義の美術家。神秘的な世界をしばしばテーマとして描き、薔薇十字会やフリーメーソンの影響を受けた。ベルギーにおける美学的ルネサンスを喚起することを目標とする「理想主義芸術展」を創設し、教育にも力を注いだ。

75《レテ河の水を飲むダンテ ジャン・デルヴィル 1919年》
デルヴィルは、ダンテの「神曲」にある「罪の記憶をぬぐい去る流れ」から着想を得てこの作品を描いた。レテ河はギリシア神話で黄泉の国にある忘却の川。過去の恋を悔やむダンテが、冥界めぐりの末に辿り着いた楽園で、淑女マチルダから差し出されたレテ河の水を飲もうとしている。

78《フランドルの雪 ヴァレリウス・ド・サードレール 1928年》
ブリューゲルの「雪中の狩人」を連想させる風景だが、人物を生き生きと描いたブリューゲルと違って、人影はひとつもない。視点が低く、空が威圧的なほど広い。人間の営みの上位にある何かを描こうとしたのかもしれない。

86《オルガンに向かうアンソール ジェームズ・アンソール 1933年》
明るい色彩が享楽的な印象を与える。キリスト受難の土地エルサレムに入城する場面に見立てて、画家本人の受難の土地ブリュッセルに入場する自身の姿を描いたもの。群衆の顔をよく見ると、骸骨や白塗りの仮面のような人物が見える。アンソールが生涯手元に置いた作品。
オルガンの奥に窓があり、そこから群集が見えているのかと思ったら、そうではなくて、オルガンの奥にあるのは、《1889年のキリストのブリュッセル入城》という大作。アンソールは首都ブリュッセルの王立美術アカデミーで学んだが、初期には画壇の異端児とされて周囲からの無理解と嘲笑にさらされたという。

88《私、私の色と私の特徴 ジェームズ・アンソール 1939年》
光が降り注ぎ女神に祝福された自画像。一見明るく柔らかい色彩でほほえましい印象だが、画面の両端にはアンソールに向かって鼻や目を伸ばそうとする顔があって、どことなく不穏な雰囲気を漂わせてる。よく見ると太陽が二つ。口のある方は禍々しい光の源なのかもしれない。

89《天使と天使を鞭打つ悪魔たち ジェームズ・アンソール 1888年
ボス風の奇妙な生き物のドローイング。

91《人々の群れを駆り立てる死 ジェームズ・アンソール 1896年》

画面中央に大鎌を持つ骸骨の姿をした死神がいる。建物の屋根や窓にも死神の姿。そして、空には奇怪な魔物がうごめく。街の狭い通りを逃げ惑う群集は顔をゆがめ、死の恐怖に慄いている。パニックになったのか、中には刃物を振り上げている姿もある。

92《キリストのブリュッセル入城 1889年マルディ・グラの日 ジェームズ・アンソール 1898年》
当時のブリュッセルで開催されたマルディ・グラ・パレード(謝肉祭の最終日の祝賀パレード)にキリストが入城する場面を描いたもの。1888年に製作した油彩の大作と同じ画題。当時の享楽的なありさまが伝わってくる。

第3章 20世紀のシュルレアリスムから現代まで

マグリットデルヴォーヤン・ファーブルと現代美術

この章では今もなお制作における豊かな源泉であり続けている「奇想」の表現が、現代に受け継がれていく過程に目を向けながら、同じバックグラウンドから生まれる500年の系譜を問い直していきます。

96《女性と骸骨 ポール・デルヴォー 1949年》
ベッドに横たわる大きな目の裸婦は左手を頬に当てている。部屋の奥にある大きな鏡には骸骨が女と同じポーズをしている。よく見ると、骸骨の手は鏡から飛び出している。
裸婦のモデルは、デルヴォーが若い頃に母親の反対で別れさせられたタム。数十年の後に再婚することになるが、別れていた間もずっとタムの姿を繰り返し描き続けた。

94《水のニンフ(セイレン) ポール・デルヴォー 1937年》
水の中で女達が戯れている様子が描かれている。ニンフはギリシア神話に出てくる女の姿をした水の精霊のこと。水辺にはギリシア風の柱がある建物や電飾で飾った風車、布がかぶせられた樹木が描かれている。
デルヴォーは異なる素材を非合理的に組み合わせるデペイズマンの手法をよく用い、画家が愛着した裸婦、汽車、ギリシア建築、アンモナイトに見入る学者等のモチーフを多用した。

105《前兆 ルネ・マグリット 1938年》
洞穴から見える雪景。遠くの山の岩の形が、猛禽類の頭のように見える。この雪山と猛禽類の頭のダブルイメージは繰り返し描かれた。

107《観光案内人 ルネ・マグリット 1947年》
チェスのポーンのような、展望台にある望遠鏡のようなものの正体は、ピルボケと呼ばれる西洋剣玉。ピルボケでできた案内人の手には建物の形をした燭台を持ち、赤茶色のマントを着て口から火を吹いている。原題の The Cicerone は、案内人という意味の他に、ローマ時代の雄弁家の名前でもある。

109《大家族 ルネ・マグリット 1963年》
嵐の予感がする暗い海の風景が家族の愛の象徴とされるカササギの形で抜き取られ、そこに青空が見える。マグリットの代表作のひとつで、宇都宮美術館がオープン準備中に約6億円で買い取ったことで話題になった。

114《オールメイヤーの阿房宮 ルネ・マグリット 1968年》
オレンジ一色の背景に根っこのある石造りの塔(フォリー)が宙に浮かんでいる。塔はすでに崩れ始めているが、根は力強く張っている。
天空樹、そして天空城は、1980年代のラテンアメリカ文学ブームの際に強く印象に残ったモチーフのひとつ。マグリットが着想したものだったと知って驚いた。

115《マウスが「ラット」と書く マルセル・ブロータールス 1974年》
猫の影絵を作る仕草で組み合わされた両腕と、黒猫が描かれている。原題は La souris écrit rat で猫とは何の関係もないが、本人が無名の頃に名前をよく間違われたことから、書き間違いをも作品に組み込むことがよくある。

116《猫へのインタビュー マルセル・ブロータールス 1970年》
仕切られた一角に入るとスピーカーから猫にインタビューする声が聞こえてくる。デュッセルドルフ、ブルク広場12番地の近代美術館鷲の部にて行われたインタビューで、無意味な対話を通し、言論ー意味・対話の成立における特殊性、不自由さ、危うさを問いかける。

119《ティンパニー レオ・コーペルス 2006-2010年》
筆を咥えた骸骨が、ドラムの上に吊り下げられている。横のモニタがあり、骸骨の頭がティンパニーに打ち付けられている様子が映し出されていた。

129《フランダースの戦士(絶望の戦士) ヤン・ファーブル 1996年》
耳の大きな生き物はエジプトのアビヌス神を思わせる。よく見るとそれは玉虫の死骸を集めて作られている。頑丈な鎧を着けているが、その足は細い角材で弱弱しくアンバランスな印象。細い足で列強に幾度となく蹂躙され、多くの死を乗り越えてきた国土を踏みしめている。ライトによって作られる影が美しい。
ヤン・ファーブルの曽祖父は「昆虫記」を記したファーブル。宗教画や歴史的な出来事から着想を得、昆虫や動物を介在させながら作品を作る。

 

元々フランドル絵画が好きなので、第一章はすんなり奇想の世界に入り込んで、集中して観ることができました。他の章についても「奇想」の変遷がわかりやすく辿れる展示内容でした。私としては、ジェームズ・アンソールやポール・デルヴォーの作品をまとめて見られたことで、今までになく面白く感じました。姫路市美術館に多く作品があるようですね。いつか行ってみよう。
バベルの塔展で既視のエングレーヴィングは軽く流したものの、ボス風の作品は絵の情報量が多いので時間がかかり、一周で約2時間半を費やしていました。噂には聞いていましたが、展示室内は非常に寒く、第一章の途中で入り口に戻って毛布を受け取りました。展覧会が始まってすぐのタイミングだったからか、この日はさほど混雑はありませんでした。しかし、本会場は絵と絵の間隔が狭い上に小作で描き込みが細かいものが多いので、大きな行列ができやすい状況です。会期中早めの鑑賞をお勧めします。

 

会場を出てすぐのカフェで、エクレールパティシエール
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この後、スペシャル・トークショーに参加しました。

melonpankuma.hatenablog.com

*1:成分を確定できるだけの断面試料が得られたということは部分的な剥離があったのだろう